ベン・トー 4 花火ちらし弁当寿司305円 / アサウラ

相変わらず読み始めはなんだこれと思うのですが、気がついたら惹きこまれて、最後には感動しているという恐ろしい小説。一発ネタな設定ではありますが、4巻になってもまだまだ勢いは衰えません。
今回はHP部の夏合宿。早朝から出かけ途中で駅というサーキットを舞台にしたスーパーとは違う弁当争奪戦に参加し、ついた先の合宿地では謎の修業を行いつつ、夏祭り最終日、花火の中で繰り広げられる月桂冠のちらし寿司を賭けた狼たちの戦いへとなだれ込みます。
途中駅での己の意思と速さに全てを賭けるアホらしくも熱いバトル、そしてスーパーである意味恐ろしい特殊能力? を持った狼「ナックラヴィー」との熱いバトル、さらにラストの「ギリー・ドゥー」と佐藤のお互いの全てをぶつけ合う渾身の熱いバトル。相変わらずやっていることは弁当争奪戦なのですが、その熱さはただ事ではありません。
そしてそのバトルに関わってくるのが、佐藤たちが合宿先で出会った二人の少女。気弱で自己主張の苦手な真希乃と自己主張が強くきつい性格の淡雪。いつだって二人一緒で、ある「約束」を交わしていた親友の二人の関係を微妙なものにしていた、子供らしい想いからくるほんの些細な行き違い。狼でもあるそんな二人を、おせっかいながらも仲直りさせようとするあやめと佐藤。
絡んだ想いのほどけた先に待っていたクライマックスのバトルとその先に続く未来は、お互いが賭けるものが丁寧に描かれていたからこそ、息を呑むほどに迫力のある感動的なものになっていたのだと思います。この辺りは本当にどうしてこんなに巧いのかと。
そしてギャグ方面も相変わらずのクオリティ。すぐに思考が明後日の方向に飛ぶ佐藤の一人称がだんだん洗練されていっているような印象です。本人は大真面目なのに、どう考えてもも頭のおかしい一人称というのは何気なく高度な気がします。そして、佐藤は本当に周りから見たら愛すべきバカなんだろうなと。あと、親父のかめはめ波エピソードと母親のネネ14歳エピソードはある意味涙なしには語れません。この親にしてこの子あり……。
さらに今回はアグレッシブさを見せていた白粉の、そろそろこいつ捕まっても良いんじゃないかな的フルスロットル変態ぶりも見どころ。妄想を妄想にとどめておかずに、実際に行動を起こそうとする彼女は明らかに変質者。世の中にこれほど恐ろしい背中流しイベントはなかなか起こらないような気がします。
そんな感じに相変わらず盛りだくさんで満足度の高い1冊でした。こんなにバカな話のはずなのに、読み終わった時に「実によい夏合宿だった!」と思わせるだけの謎のパワーが、この小説にはあるのだと思います。