3月のライオン 3巻 / 羽海野チカ

3月のライオン 3 (ジェッツコミックス)

3月のライオン 3 (ジェッツコミックス)

「一人じゃどうにもならなくなったら 誰かに頼れ。
 ――でないと実は 誰も お前にも 頼れないんだ」

3巻にして傑作の予感。やっぱり羽海野チカは凄いです。
体調を崩して、川本家のお世話になって、人の温かさを感じて、だからこそ一人の自分に気がついた時、その幸せが怖くなる。
一人で立ちたいと思って、一人で生きられると思って、逃げてはいけないと思って。義姉との関係、将棋という世界、そこから始まった零の闘い。何もかもを自分から遠ざけて、そうやって守ろうとした何か。でも現実はずっと厳しくて、翻弄されて、悩んで、苦しんで。
頼っちゃいけないと思うからこそ、遠ざけようとするその優しさは麻薬のようで、その恐怖が痛いほど伝わってくるから、不器用な零の姿に共感して、だからこそ先生のこの言葉が胸に痛いほど響きます。
そんな零を取りまく人々の姿もまた、それぞれがそれぞれに印象的。特にこの巻では一見すると地味な感じの島田八段のプロ棋士としてのブレない強さが印象に残りました。弟弟子の二階堂に、因縁の相手に目を奪われて周りの見えなくなっている零の頭をかち割ってくれと頼まれて、それを受ける姿はさすがという感じ。他の場面でも、背負ってるもの、歩いてきた道からくる重さを感じさせてくれて、でもそんなところを見せながら、後藤との対局ではお互いに負けず嫌い全開の泥仕合を演じる辺りも、これはこれで人間らしくて魅力的だなと。
他のキャラクターたちも、それぞれが、生身の輪郭を持った、弱さも強さももある一人の人間だと強く感じます。そして川本家の親戚の家に行った時のような空気や、逆に冷たく誰もいない零の部屋にも、確かな空気感があって、読んでいて本当にこの世界に引き込まれるような気分に。こういう手触りみたいなものが、この作品をここまで魅力的にしているのかなと、そんな風に感じました。
厳しい勝負の世界に身を投げるとともに、自分の立っている場所も不確かで悩み迷う零ですが、彼を取り巻く人たちとの関係の中で、きっとお互いに何かを埋めあって、少しずつ良い方に変わっていけるんじゃないかという希望も感じた一冊でした。続きも楽しみに待っていたいと思います。