黄昏色の詠使い 10巻 夜明け色の詠使い / 細音啓

どこまでも純粋で、真っ直ぐな想い。交わした約束。信頼と絆。そして、世界を歌が包み込む……。
黄昏色の詠使い完結。この物語のラストにふさわしい、どこまでも澄んでいて、何よりも真っ直ぐで、愛おしくなるようなエンディング。本当に、ここまで読んできて良かったと思える、素晴らしい最終巻でした。
残酷な純粋知性としてミクヴェクスに還る運命にあるクルーエルを助け出すこと。それだけを胸に、ミクヴェクスを名詠しようとするシャオと対峙し、自分以外の人々が皆眠りについた世界で全ての名詠を敵に回したとしても、決して折れない、まっすぐな強さ。あの頼りなかったネイトが、自分で開いてきた道だから、ただ純粋に大切な人のために強くなった結果だから、それでも力及ばずに倒れそうになった時に、これだけの人が彼の想いを支え、彼の行く末を見守ってくれる。アマリリス真言からの流れは、本当に優しく感動的で思わず視界が滲んでしまいました。
ネイトとクルーエルの約束、イヴマリーとカインツの果たせなかった約束、ネイトとクルーエルに向けられた仲間たちの信頼。世界の在り方にまで大きくなったこのシリーズですが、やっぱりその本質は純粋な想いと、信じ合うということにあるのだなと思います。不純物が無い世界は、普通なら嘘っぽく感じるのかもしれないけれど、でもこの作品においては、この優しさと透明感こそが物語を綺麗な色に輝かせていたのだと思うのです。
他のキャラクターたち、特にアルヴィルとエイダ、テシエラとレフィスの決着のつけ方も良かったです。それぞれのキャラクターたちが魅力的だったことも、このシリーズの素敵なところだったなと思います。子供たちはみんな本当に良い子だと思いますし、大人たちの優しさもじんとくるものがありました。
そして5色を基本にした、歌うことで発動する名詠式。色と音の洪水でこの世界が満ちて行くイメージが素敵で、この作品の雰囲気を作っている設定だったと思います。
シリーズの途中では、この作品はどこに行くのだろうと思ったこともありましたが、完結してみると、ただただ純粋に素敵な物語だったと感じました。ここまで彼らを導いてくれた作者と、透き通った色彩の絵で物語を彩ってくれたイラストレイターに感謝しつつ、間を開けずに始まる作者の新シリーズを楽しみに待っていたいと思います。