ピクシー・ワークス / 南井大介

ピクシー・ワークス (電撃文庫)

ピクシー・ワークス (電撃文庫)

1機の戦闘機と4人の少女のひと夏の物語。
3人の天才女子高生と一人の普通の女の子の4人が、大戦時の戦闘機を修理して空に上げるというストーリー。環太平洋戦争という戦争後の日本を舞台にした歴史改変ものとしての軍事要素と、破損したAI搭載の無人戦闘機を修理するというメカ要素が難解にならないくらいのバランスで組み合わさって、この作品の世界観を形作っている感じがして良かったです。
そしてこの戦闘機を修理する天文部3人娘が生粋のマッドサイエンティストたち。自分の興味本位で危ないことでも平気で首を突っ込み、自身の価値観をベースにした損得勘定で動き、難題であろうと天才的な能力でねじ伏せる様は、本当にこの子たちは女子高生なのかと驚かされるような感じ。遠藤由衣という普通の女の子がそこに加わっていたり、水着で海に行ったり家で宴会をしたりという学生らしいイベントもあったりもするのですが、どうにも女子高生の夏休みというイメージからはかけ離れた話が展開しているような気がします。
さらに彼女らを戦闘機の修理およびそれを飛行させることというとんでもない計画に巻き込んだ蓮も、天才ハッカーにして某組織メンバーと本当に男子高校生なのかと。
とはいえ聡明かつエゴイスティックな彼女たちがメカいじりに明け暮れる前半も、実際に空を駆ける後半も、硬質ですっきりした印象の文章も相まって、どこか抜けるような青空や夏の空気を感じさせてくれるところがあったのが非常に好みでした。ヴァルトローテというAIとのやり取りや、風の流れを感じられるようなドッグファイトの描写も凄く良かったと思います。そして物語の結末で分かる「ピクシー・ワークス」というタイトルの持つ意味にはにやっとさせられるものがあったり。
ただこの物語、テロ行為に女子高生が加担している話でもある訳で、他に当てが無いとは言え命さえ危険に晒すようなことに高校生を巻き込む大人たちや、天文部の3人はまだしも何も分からないままに蓮への恋心だけで犯罪行為に加担する由衣の姿は、読んでいてちょっとどうなんだろうと思いました。血は流さない、とはいえこの行為が社会的にどれだけの影響を及ぼして、それが何人の首を絞めるか、そういうことがまとめて外に切りだされているような感じがなんだかなと。その部分に引っ掛かりを除けば凄く好みの物語だっただけに、ちょっともやもやとしたものが残る作品でもあったのでした。