氷結鏡界のエデン 楽園幻想 / 細音啓

幽幻種という存在が人を脅かす穢歌の庭。その上空に浮かぶ浮遊大陸に人は暮らし、侵攻する幽幻種から巫女の氷結鏡界が人々を守っている。
空に浮かぶ大陸。冷たく澄んだ氷の結界。その映像イメージだけでなんだかもうズルいような細音啓の新シリーズは、氷結鏡界を支える巫女の一人であるユミィと彼女の幼馴染であり、共に天結宮で過ごしながら穢歌の庭に落ち幽幻種の力を宿したことで追われた少年シェルティスの物語です。
巫女とそのパートナーである千年獅を目指しながら、天結宮に居ることを許されなくなった少年。そして、誰よりも近かった二人を、触れることすら叶わなくした正反対の力。運命に引き裂かれながら、それでもお互いを想い続けていた二人。幽幻種の大規模侵攻、狙われる天結宮、割り切れない感情を抱えていた少年は走り出す。彼女の守る自らを追い出した天結宮へ、という展開と設定がもうあざといというかなんというか王道ながらにすばらしかったです。
今作では巫女の術式の中に機械系の用語が入ってきたり、バトル要素が多めだったりと雰囲気そのものは変わってきているのですが、引き裂かれる二人とその純粋な想いというテーマは前作に通じるものがあって、それが作品を包む透明感と合わせてこの人の作品世界を作っているのかなと思いました。
物語的には始まったばかり、まさに導入という感じでまだまだこれからというところ。この巻だけだと、あまりにも事態が簡単に都合良く進み過ぎているような印象で、いまいち盛り上がりきれない部分もあったので、今後の展開に期待したいと思います。そして願わくば、今後もエリエの出番が減らないことを。メカ好き少女は正義だと思うんです!