神林長平トリビュート

神林長平トリビュート

神林長平トリビュート

神林長平は未読のまま、海猫沢めろん虚淵玄円城塔桜坂洋辻村深月仁木稔元長柾木、森深紅という作家陣に惹かれて購入しました。
8人の新世代作家がそれぞれ別の神林作品トリビュートを書く形の短編集。それぞれの作家の個性が出ていてこれはこれとして読んでも面白かったですが、やっぱり元作品を知らないと楽しみ切れない部分はある感じでした。解説はそれぞれの短編についてはいるのですが、それだけではちょっと足りないのかなと。元の作品を知っている人ならば、「あの作品をこうするのか!」や「ここでそのネタか!」的な楽しみがあるのではないかと思います。
話の中で面白かったのは、辻村深月の「七胴落とし」と森深紅の「魂の駆動体」。
辻村深月は子供だけが猫と会話できるという設定で、柔らかい雰囲気の話。猫との関係を通じて大人になっていく少女の姿に温かい気分になるような作品でした。そして人とは違う猫の価値観を持って、全てをあるがまま受け入れる様な監督猫のミャウダさんがとても魅力的だと思います。
森深紅は、車が自動化された未来に、元カーエンジニアのお爺ちゃん二人が昔ながらのガソリン車を手作りしようとする話。ままならないこその魅力、エンジン音やコックピットに座った感触といったところにクルマへの愛が感じられれて、車好き的にはグッと来ざるを得ない作品。何かを創り上げる楽しさ、そして受け継がれていくものもあって、モノ作りって素敵だなとも思いました。
他では元長柾木の「我語りて世界あり」が、個人と社会を極端なまでに二極化させて、それぞれを集団に仕立てて異能バトルさせるという強烈な内容で、その振り切れ方が面白い面白くないというよりもとにかく気になる作品。そして海猫沢めろんの「言葉使い師」が、言葉によって世界が認識されて、認識から世界が生まれて行くような、現実感のないふわふわとした話から、言葉の限界とその向こう側を示唆しようとするように広がっていく哲学っぽい作品で面白かったです。