零崎人識の人間関係 匂宮出夢との関係 / 西尾維新

零崎人識の人間関係 匂宮出夢との関係 (講談社ノベルス)

零崎人識の人間関係 匂宮出夢との関係 (講談社ノベルス)

『殺し名』序列1位、匂宮雑技団時期エース、匂宮出夢。女性の肉体に兄と妹の二人の精神を持つ長髪の殺し屋。
『殺し名』序列3位、零崎一賊の鬼子、零崎人識。純粋な零崎である顔面刺青の殺人鬼。
これは、裏の世界のプレイヤーとしてぶつかることはあっても、本来絡み合うことはありえなかったはずの2人の関係、愛と憎悪に彩られた小さな恋の物語でした。
ストーリーは玖渚直の暗殺という超難易度な仕事に人識の手を借りた出夢と、さらに学園を脱走して人識のところにやってきた玉藻を合わせた異色な3人パーティーが、直木三銃士の護る玖渚直暗殺に挑むというもの。でも、そのバトルよりも、タイトルどおりに人識を巡る人間関係、特に出夢との関係が描かれた物語だと思いました。
飄々として何を考えているのか分からない、殺人鬼でありながら一般人の顔を持ち、零崎一賊でありながら、家族の繋がりから半歩外れた位置にいる人識。そんな人識だから、出夢との関係は奇妙に近づいて、いつの間にか恋人のような家族のような、殺しあう仲から助け合う仲のような、そんな風に変化していって。でも、そんなありえないことがありえるのは人識が異端であるからであって、存在の基盤として強くあることを定められた出夢にとってはそれで良いわけもなくて。
積っていた違和感が堰を切った直接の原因は、あの人の余計な手出しではありますが、それでもこれは二人の関係が描いてしまった必然の軌跡のように感じます。交わりようのないところに生まれた強固な縁は、その強固さと成立するはずのない前提故に、愛と裏返しの強烈な憎悪で結ばれる。お互いにとって一人だけの特別で、憎み、愛し、敵として殺しあうからこそその間に生じる二人の関係は、哀しいものだからこそとても美しく魅力的にも映るのだと、そんなことを思った物語でした。