告白 / 湊かなえ

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

すごく好きだけど、素直に好きとは言い難いようなカタルシスを味わえる復讐劇でした。
1章ずつ登場人物の独白形式で語られていくのは、女性教師の幼い娘が学校のプールで死亡した事件と、そこから始まった苦しみの連鎖。水死事故と判断された事件について、殺されたと考えた女性教師森口の、最後のHRでの長い語りからなる第1章は「このクラスの生徒に殺されたんです」という言葉から奇妙な緊張感を持って走り始めます。
落ち着いた口調で淡々と、でも暗い熱量を篭めて語られるこの独白は、犯人A、Bをゆっくりゆっくりと真綿で締めていくようなもの。織りまぜられる社会に対する斜めから見るような捉え方と併せて、端的に言うと物凄く陰険な感じ。でも、静かで、真面目で、頭の良い印象を受けるこの先生の、仄暗く揺れるような復讐の炎は、読んでいると息が詰まってじわじわと侵食されていくというか、距離感が取れなくなって引き込まれてしまうような迫力がありました。そして変わらぬテンポとテンションを保ったままに、考えられる中でも最悪に近い方法で犯人AとBを自らの手で裁くシーンで感じる暗いカタルシスは、読んでいて気分が良くなるのが気持ち悪いという不思議な感じ。
そして、ここから始まる物語は、その事件の過去と未来を関係者の独白で描いていきます。事件が本当はどのようなものであったのかは、独白からでは確かなことは分からないものの、そこから導かれていく出来事は、独善と欺瞞と悪意で彩られて、最悪の結果へと進んでいきます。誰かの目から見れば酷い人が、また誰かの目から見れば善人でもある。それは、その人の立場や持っている情報によって変わるもの。自分の想いだけをぶつけられる独白が重なることによって見えてくるのは、どうしようもなく自らのエゴでしか物事を考えられない人間の姿で、それが悪い方向に噛みあって堕ちて行った結果がこの物語なのだと思いました。
発端となった事件はどんな背景があるにせよ決して許されるものではなく、そういう意味ではこの物語は最後までシンプルな復讐劇です。ただ、独りよがりな考えが導いた喜劇じみた悲劇を延々と描く作品の中で、森口先生が自らの手で下した復讐をそのままに受け取ることは難しい気がします。自らが教師であるということを理由にして、真相を暴いた事件を司法に委ねるのではなく、自らの手で罰を与えることを選んだのは、間違いなく彼女の独善。ならば、それがどんなにカタルシスを感じるものであったとしても、この結末は単純に悪を裁く物語として読者を楽しませてくれはしないと思ったのでした。
そういう部分も含めて、登場人物に対しても、読者に対しても大変悪趣味で、でもそこに魅力があるという小説でした。なんだかんだ言っても、一言で言えば面白かったのだと思います。