- 作者: 相田裕
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2010/04/27
- メディア: コミック
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軍警察に所属し家を開けがちだった二人の兄と妹のエンリカ、そしてジャンの婚約者であるソフィアとエンリカの関係を描いていく序盤から、実際にテロが起きる後半まで、早いテンポで語られて行くクローチェ事件の記憶は、一気に駆け抜けていくからこそその痛切さが伝わってくるような感じ。テロが起きる背景にあるイタリアの南北問題と、南部出身のソフィアに対して北部出身のエンリカが最初は反発しながら次第になついていく様子のコントラストが、そしてようやく見えたかに思えた幸せを蜃気楼のようにかき消してしまったあっけないほど一瞬の事件が、やるせなく、哀しく、大きな流れに翻弄された兄弟の復讐の理由を教えてくれます。
ただ、それでも。それが、第1期の義体の寿命が迫る中で、トラウマにかられ、記憶を失いつつあるヘンリエッタを戦わせる理由になるのか。ジョゼのヘンリエッタへの優しさは、エンリカに注げなかった愛情分の罪滅ぼしのようで、それに対して返され続ける条件付けの愛情は自己満足に過ぎないものかもしれない。だからこそ、ヘンリエッタの無邪気さを読んでいてどう受け取ればいいのか分からなくて。
エンリカの亡霊に迫られ、ジャコモを殺すことにとらわれる彼の抱えた憎悪と欺瞞の全てを。義体という存在とは何なのか、復讐とは何なのかというという問いを。そしてこの歪んだ物語をエンターテイメントとして読者が受け取る事の意味を。ヘンリエッタの最期となり、クローチェ事件から始まったジャコモ=ダンテとの戦いの最後になるであろう次のエピソードで見せてくれることを、今はただ待っていたいと思います。