道徳という名の少年 / 桜庭一樹

道徳という名の少年

道徳という名の少年

短い中でも、というよりも短いからこそ濃厚で、まじないの言葉のような連作短編集でした。
少し前の時代から、現代まで。町で一番美しい女の、1、2、3、悠久と名付けられた4人の娘から始まる物語が、短編ごとに1代、まだ1代と世代を重ねながら描かれていきます。時代背景や土地などの細かい輪郭は曖昧にぼやけていて、異様なまでに美しい若者や、肉の海のように広がる老人、腕のない息子と腕だけのような父親といった登場人物。そして現実的には起こりえない魔術的な数々の出来事、その色や匂いを伴ったそのイメージが、幻想的でくらくらするような世界を形作っている感じ。
美しいものと醜いもの、若さと老い、愛情と執着、音楽、近親相姦、過去と現代。そういった桜庭一樹作品の中で描かれてきたテーマを煮詰めて煮詰めて短編にぎゅっと濃縮したようなこの作品は、明確なメッセージを読み取るとか、深く分析をするというものではなく、ただこの濃厚さにくらくらと酔うための物語なのだと思いました。
個人的には、文章として著される小説というよりも、原初的に物語る人たち使うような、もっと呪文的で魔術的な言葉にイメージの近い作品。堪能しました。