七花、時跳び! Time-Travel at the After School / 久住四季

七花、時跳び!―Time‐Travel at the After School (電撃文庫)

七花、時跳び!―Time‐Travel at the After School (電撃文庫)

「先輩は鈍いですよね」
「は、はあ?」
「……先輩は、縁日ですくわれたのに、ちっとも餌がもらえない金魚の気持ちがわかりますか。そういうの可哀想だって思わないですか」

突然タイムトラベルができるようになった女の子と、部活の先輩の男の子が繰り広げる、ライトでポップなタイムトラベルもの。
タイムトラベル、といってもその仕組みやどうして出来るようになったかは謎のまま。過去や未来へ行くことで社会に及ぼす影響もほぼゼロ。繰り広げられるのは、あくまでも何故かタイムトラベルができるようになってしまった女の子と、その能力を新しく手に入れた玩具みたいにはしゃぐ男の子の姿で、男の子がいたずら心で女の子に無茶を言って、過去に飛んだり未来に飛んだりして小さな騒動を引き起こす的パターンの物語になっています。
とはいっても、難しくなりすぎず、かといって適当になることのない、パズル的な時系列の組み立て方はさすがミステリを書いてきた作者という感じで、連作短編の形式で少しずつ違う形でそれを見せてくれるので読んでいて飽きません。この辺りのスマートさはこの作品のひとつの魅力だと思います。
そしてもうひとつ魅力だったのは柊と七花の関係。興味本位で暴走する柊と、それに付き合わされて困った顔をしながらどこか悪い気分でもなさそうな七花は、行動も言動も高校生というよりもいっそ小学生カップルのようなノリで読んでいて微笑ましいです。上で引用した酔っ払ってしまった七花の発言から、未来の七花のちょっと怖いくらい積極的な態度への変化の過程を想像するというのもまたニヤニヤもの。そしてそんなプチ騒動を通じて二人の未来へと繋がっていく感じも綺麗にまとまっていて良かったと思います。
そんな感じにポップでライトで好ましい作品ではあったのですが、反面綺麗にまとまりすぎている感じが無きにしも。よくできた小品の魅力はもちろんあって、だから贅沢な望みだというのも分かっていますが、何か一つ突き抜けた魅力があればもっと面白い作品になったようにも感じました。とはいえ、十分に楽しませてもらえる愛らしい作品でした。面白かったです。