東京レイヴンズ1 SHAMAN*CLAN / あざの耕平

東京レイヴンズ1  SHAMAN*CLAN (富士見ファンタジア文庫)

東京レイヴンズ1 SHAMAN*CLAN (富士見ファンタジア文庫)

最後まで読んで、最初から読み返して、思わずニヤニヤしました。
あざの耕平最新作は現代を舞台にした陰陽ファンタジーもの。安倍晴明の末裔として日本の陰陽師界をリードしながら、稀代の天才であった土御門夜光の行ったある儀式によって日陰者となった土御門家。その次期当主であり将来を渇望される少女夏目と、逆にまったくその道の才能がなく、普通の少年として過ごしてきた春虎の再会から始っていく物語です。
巻き込まれた陰陽師がらみの事件に、直情先行で真正面から突っ込んで行って失敗する春虎の考えなしも、本家跡取りの重責を背負って立派に振舞おうとしながらすぐに余裕がなくなってボロの出る夏目も、まだまだ未熟で、だからこそ二人がここから成長して行く物語になるのかなと思います。その分この巻での二人は、頼りなく感じてやきもきする部分も多いのですが、そこはまだ物語は始まったばかり。
土御門夜光という存在と夏目や春虎との関係。現代使われる汎式の陰陽術と、夜光の創り上げた陰陽術の違い。そういったものを考えれば、彼らを待ち受ける未来は波乱に満ちたものとなりそう。そんな中で、自らの意思をもって陰陽師の世界に足を踏み入れた春虎と、そんな彼を待ち続けていた夏目がこれからどんな道を歩んでいくのか、楽しみです。



そして以下ネタバレ反転。
この作品でとにかく良かったのは、最後に明らかになる夏目と北斗の関係。途中まで読んで、たしかに面白いけれどストレートに中高生向けでちょっと私の好みからは外れているかなと思っていたのですが、ラストを読んでびっくりして、頭から読み直してすっかりやられました。
北斗と冬児と春虎の友達関係も、北斗から春虎への想いも、夏目と春虎の関係も、初めに読んでいるときはそれはそれとして楽しめるものなのですが、夏目=北斗とわかってから読み返すと話が全く違って見えてくると言う一冊で二度美味しい構成が素晴らしかったです。
読んでいて感じた北斗の好意の不自然さも、あのすました態度をとる夏目が遠くから本心ダダ漏れで操っていたと思うと、なんだかもうニヤニヤするしかない感じ。そしてそう思って読むと、夏目がどの段階でどんなことを知っていて、だからこういう行動や言動をしていたのかと思ってまたニヤニヤできるという。
それにしても、さんざん振り回されながら結局そのことに気がついていない鈍感で察しの悪さ極まる春虎の極まったバカ虎っぷりも、こんなに手の込んだ愛情表現をしてきた夏目の素直じゃないところも、こいつらは本当にめんどくさいな奴らだなと思いますが、そこはこれから陰陽塾で夏目と春虎の関係がどうなっていくのかを、生温かく見守っていきたいと思いました。