羽月莉音の帝国 2 / 至道流星

羽月莉音の帝国 2 (ガガガ文庫)

羽月莉音の帝国 2 (ガガガ文庫)

速水半導体工業に対する乗っ取り気味の買収劇の成功で一気に有名人となった巳継と株式会社革命部。そんな彼らが今度はPMCのオーナーのところで軍事訓練を受けたり、フロント企業に支払いを踏み倒されそうになってヤクザと正面きって争ったりする第2巻。
この小説は、「この世界は狂っている」「世間なんて大馬鹿だ」というスタート地点から、その世界をぶち壊して突き抜けて行くような話だと思うのですが、そこで異能の力とかファンタジーな要素ではなくて、その狂った世界を形作っている市場経済や金融というものを逆手にとって使っていくのが面白いです。
莉音は巳継を革命児的な高校生社長として祀り上げて、その人気を使って革命部の次の手を打っていきますし、物語の後半、自分たちの10倍以上規模のある企業に買収を仕掛ける際に使うのはほとんどアウトっぽい市場操作にレバレッジド・バイアウトというウソみたいな金融手法。実態のないままに膨らんで行く額面が、何もないところにまるで特別なものがあるかのような力を生み出し、成功と失敗のリスクを何十倍、何百倍にも押し広げる。
そのスケールの大きなバカバカしさに呆れつつも、その渦中に飛び込み、駆け抜けて行く莉音や巳継たちの物語のスピード感に惹きつけら、彼らの行く末に何が待っているのかに興味が惹かれるれるような作品だと思います。
さらに先、もっと先を目指して、どんどん細くなるロープの上を綱渡りするような戦略を取り続けてきた革命部。止まってしまえばそこでお終いとはいえ、後半に踏み出したアクアス買収劇はあまりにも無茶な賭け。10倍以上の規模を持ち、優秀な経営者の率いる企業に仕掛けた買収戦は、当然のように彼らを窮地に追い込みます。
この辺りのインフレ感とスピード感、そしてお互いの戦略をぶつけ合うような争いは純粋に面白かったですし、その中で完全無欠に見えた莉音というキャラクターも、暴力団との争いの中で秘めた器の大きさを見せた巳継も、優秀とはいえ一介の高校生に過ぎず、脆さや危うさを持っていることが見えるが良い感じ。
順風満帆で勢いに乗って暴走気味に膨れ上がり、そして止まれなくなって絶体絶命の危機を迎えた彼らが、一度落ちた底からどうやって這上っていくのか。凄いところで幕切れしているだけに、3巻が楽しみになる1冊でした。