アンチ・マジカル 〜魔法少女禁止法〜 / 伊藤ヒロ

アンチ・マジカル ~魔法少女禁止法~ (一迅社文庫)

アンチ・マジカル ~魔法少女禁止法~ (一迅社文庫)

魔法少女を飾っていたファンシーやメルヘンを取り払って、替わりに血と狂気で彩って。正義のために戦う魔法少女という悪趣味を、それ以上の悪趣味で暴き立てるような物語でした。
平和を脅かす鬼魔と闘い、人々を守っていた魔法少女たち。彼女たちが鬼魔を打ち倒し、世界に平和が戻った時、そこに残るものは、ただ人の身を超えた圧倒的な力だけ。一切の魔法少女活動を禁止する魔法少女禁止法が制定されて10年、街に蔓延る悪に私刑を加える非合法な魔法少女活動を続けるスウィ〜ト☆ベリー!。そしてそんな彼女に助けられ、彼女の助手として魔法少女活動に身を投じる少年、魔法少女サクラを中心に語られる物語は、一人の元魔法少女の不審な死から思わぬ展開を見せます。
事件の手がかりを掴むためにベリーが訪ねて回るのはかつて共に闘った元魔法少女たち。それぞれが過去を捨て、ある者は家庭に入り、ある者は企業し、ある者は魔法少女をネタにレポーターとなる。そこにあるのは、ふわふわしたパステルカラーに包まれた魔法少女の世界を真正面から壊すような、くすんだ色味の現実世界。人々を守るために戦うという重責に晒され続け心を壊した元魔法少女。そして、「熱心なファン」に襲われ暴行の上に殺されたまだ幼かった元魔法少女。ここまで来ると、そこにもう救いはありません。
魔法の力で悪と戦う魔法少女という色鮮やかな世界を裏側から、渾身の悪趣味で描くこの物語は、それでもそれを一概に否定をできないところが凄いと思います。ファンシーさの隙間に覗いていたものを無理やり引きずり出すようで、子供の頃から魔法少女作品があって当然の中で育ってきた身には強烈で、でも分かってしまう何かがここには確かにありました。だからこそ、この醜悪さは不愉快ではなく、カタルシスを感じるものになっているのかなと思います。
使い方次第では人を何百人も殺せるような強すぎる力を個人が持つこと。その個人がかざす正義、守ろうとする《キレイなココロ》とは何なのか。ベリーとサクラの二人が関わっていく事件の中で見せつけられる、分かりやすい敵のいない世界で魔法少女が生きるということ。そしてクライマックス、真っ直ぐな心と踏み出す勇気を持って闘う正しいはずの姿に見える歪み。
ライトノベルということだからか残虐描写はかなり控えめではありながらも、シビアで容赦の無い展開と、ウェットにならずにキャラクターを突き放した3人称の文章は、魔法少女というものを愛情を込めて壊してやろうという作者の想いを感じさせるもの。中途半端なパロディ作品にならずに、ここまで振り切った作品となっていることが素晴らしいと思いました。
この一冊では伏せられた情報はまだ多く、語ることはまだまだ残っているような感じ。ラストシーンの先、この破壊の向こうに新しい何を見せてくれるのか、続きがとても楽しみです。