猫物語(黒) / 西尾維新

猫物語 (黒) (講談社BOX)

猫物語 (黒) (講談社BOX)

別にいーじゃねーか!
それでいいじゃねーか!
あんま深刻になるの――やめようぜ!

救えなくて、笑えなくて、本当にどうしようもなくて、それでも生きていく僕たちの物語。
化物語の頃から触れられつつも、ずっと語られることのなかった羽川翼と障り猫のGWの話なのですが、前半1/3は例によって例のごとく、メタからネタまで何でもありな会話の掛け合いだけで構成される感じ。今回は阿良々木くんと月火の会話なのですが、阿良々木くんのレベルが高まりすぎて何一つ躊躇のない変態という名の紳士になっていました。パンツの話とか、妹とお互い下着姿でどうしたとか散々やった挙句、その後のシリアスな話の中でも隙あらば顔を出す紳士マインドに、今までも十分すぎるほどにひどかったですが、今回に至っては阿良々木くんはついに戻れない人になった感じがしました。面白いには面白いけど、正直ドン引いたことも間違いない!
という阿良々木さんの活躍はひとまず置いておいて、羽川翼を巡る物語は西尾維新らしいというか、戯言シリーズでたどり着いた出口から西尾維新という作家はブレていないんだろうなと思うような話。阿良々木暦羽川翼。取り返しなんてとっくにつかなくなった、人間離れしてしまった二人が、それでも生きていくための物語。ただ、自分で全てを背負いこんで内向きに壊れていくのがヒロインで、それを引き止めるのが主人公というところに少し変化があるのかなという気も。
羽川翼の異常性については今までも折に触れて語られていたことではありますが、こうやって改めて描かれるとそれを痛感させられます。正しいこと、こうあるべきだということ、それを自分の感情とは全く別の次元で倫理として自分に課して、実際その通りに行動をしてしまえるという究極の偽善。そしてそれを持って自分が普通であるとする少女は、周りから見たら人間味の感じられない、誰よりも普通じゃない善性の怪物みたいなものに見えるのだろうなと思いました。
そして、そんな羽川だからこういう事になるわけですが、でも羽川がこうなるしかなかった理由も確固としてある訳で、それはやっぱりある意味どうしようも無い不幸で、それでもそういうものとして折り合いをつけるしか無く、その中でもがいて生きていくしかのかなとも。そしてそれはまた、阿良々木暦という少年の他人への鈍感さと抱合せの優しさ、異常なまでの自己犠牲精神にも言えることなのかもしれません。
そんな感じで、このシリーズの中では物語的に一番楽しめた一冊でした。その反面ちょっと掛け合いの部分が辛くなってきたのですが、そこはきっと八九寺が出てくれば!