這いよれ! ニャル子さん / 逢空万太

這いよれ! ニャル子さん (GA文庫)

這いよれ! ニャル子さん (GA文庫)

「いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌、ニャルラトホテプです」

なんというかもう、このニャル子の登場シーンだけで全て勝っているような気のする一冊。
私は元ネタになっているクトゥルフ神話は聞いたことはある程度でよくは知らないのですが、それを差し引いても十分に面白いコメディ作品でした。
とにかく、最初から最後まで真面目な顔してすっとぼけたことをいうようなノリが面白いところ。主人公の真尋はある理由から「何か」に狙われていて、それを守るために派遣されたニャル子に身を守られる訳ですが、思わず読みながら「なんでやねん」と突っ込んでしまいそうになる斜め上にシュールなニャル子の行動と言動に振り回されまくり。宇宙人なニャルラトホテプやその他クトゥルーなあれやこれやの強引な設定も凄いですが、説明に困ったら宇宙的な何かということで全て流してみせたり、実際のクトゥルー神話との整合性を「昔ラヴクラフトに仲間が会った」で片付ける辺りが相当に剛腕。
それでも、そんな滅茶苦茶一歩手前な話でありながらその展開自体はしっかりしていますし、ニャル子のはた迷惑さも不愉快になる一歩手前のところでしっかりコントロールされている感じ。むしろ、嬉々として真尋にお約束を仕掛けるニャル子の姿や、ニャル子がヒーローで真尋がヒロインの役割になっていることのように、王道と見せかけて何かがちょっとずれている展開でもって読者をぎりぎりのところでかわし続ける天邪鬼さが、この作品の面白さなのかもしれないと思いました。
それからキャラクターと会話が魅力的。厚かましくてふざけているようでもどこか憎めないというか、何故か可愛く思えてくるニャル子の魅力もありましたし、文章の中にしれっとネタを仕込んでくる辺りも読んでいて面白かったところ。でも、個人的に一番良かったのはニャル子と真尋の会話の掛け合いのセンス。噛みあっていないようでちゃんと噛み合っている会話が大好きです。
そんな感じにとても楽しめた一冊。ちなみに、読み終わってからニャルラトホテプをイメージ検索して、見なかったことにしてそっとタブを閉じたのは秘密です。