にがくてあまい 1 / 小林ユミヲ

にがくてあまい(1) (エデンコミックス)

にがくてあまい(1) (エデンコミックス)

独身女とゲイの男の不思議な同居生活を描いた物語。
男にフラれて凹んでいた仕事に燃える独身女江田マキと、そんな彼女をたまたま介抱することなったゲイでベジタリアンのイケメン高校教師片山渚。マキが押しかけるような形で始まった二人の奇妙な同居生活は、社会の荒波や家族との関係で荒んでいた心を少しづつ溶かしていくような、不思議な居心地の良さに満ちたものでした。
コネ入社のコンプレックスと喧嘩して飛び出してきた実家の両親への意地から、仕事に全てをぶつけてきたマキ。傍目には優秀で美人で通っていても、生活は荒んでいて友人も少なく、頑固で子供っぽいところがあって。そんな荒れていた彼女の生活が、誰かと一緒にいることで変わっていくといえばありふれた話なのですが、そこに恋愛関係が関わらないゲイの男との同居生活という要素が入ることでちょっと変わった物語になっていました。
そしてこの関係の居心地の良さが素敵な感じ。恋愛感情のもつれみたいなことがなくて、築かれていくのは他人以上家族みたいな関係。口うるさく潔癖症な渚と優秀だけど子どもっぽく偏ったところのあるマキの関係はどこか母娘みたいでもあり、それでもやっぱり恋人に見える瞬間もあったりして、面白い関係だと思いました。その生活の中心にあるのがベジタリアンな渚の作る野菜料理でそれが凄く美味しそうに見えるのも、この作品の雰囲気を作っていて良いなと。
そんな中で溶けていくのは心に残るしこり。前半のマキの話では、彼女がムキになって仕事にぶつかる理由、そして小さな行違いから意固地になって壊れかけていた両親とのわだかまりが、渚の助力もあって少しづつ解消していくような展開。後半は渚の兄とミナミという女性アイドルを巡る物語で、やっぱりそこにあった誤解やわだかまりが少しづつ溶けていくような話。人との緩やかな繋がりが、意地を張って追い詰められていた自分を楽にしていくような優しさは、この作品にずっと流れている感じがして、特にマキが父親と話をするシーンでは思わずウルっとくるものがありました。こういう辛い毎日の中に見える優しさに私はとても弱いです。
そんな感じで、優しくて思わず野菜が食べたくなる、とても素敵な作品でした。日々の生活に疲れているなと感じる人にオススメです。