バカが全裸でやってくる / 入間人間

家族より恋人より人生より、何よりも先ず小説を書くこと、それを沢山の人に読んでもらうことを求めて、どんなに滑稽でも死にそうに苦しんでも何かを犠牲にしても、それでも夢の方向に走り続けることをやめられない、そんな小説バカたちの織り成す5つの物語。
語り手を変えて紡がれる5つの物語の共通点は、語り手がみんなどうしようも無い小説バカで、ある者は全裸のバカにそそのかされて同じ大学の人気作家の女の子に近づいてみたり、ある者はいい年してスランプで引きこもってみたり、ある者は家族も顧みれず幽霊になってまで小説を書き続けていたりとロクでも無い人たちばかり。そんな彼ら彼女らに共通するのは、小説が好きというその一点。登山家が山を登ることに理由が必要ないように、小説家(とその卵)にとって書くことに理由なんていらない。辛くても苦しくても恥ずかしくても何を犠牲しても、それでも息をするように書き続けずにはいられない、普通の人なら超えない一線を何もなかったかのように超えてしまうこの業こそが、綺麗事かもしれませんが小説家を小説家たらしめるのかなと思ったり。
そしてこの作品で面白かったのは、小説を書く人を描きながら、小説自体の話にはしていないこと。抽象的な芸術論というか、「小説とはなにか?」みたいな形而上の問いには決して向かわずに、あくまでもその人の人生、その人の生活の中に小説があるという描き方。彼らは職業としての小説家で、多くの人に読まれて喜ばれることを求め、売れたり賞をとったりすれば嬉しくて、夢を見たり現実に潰されそうになったりしながらもがいています。見たくもない才能の壁はあって、特別ではないそれなりな作品しか書けなくても、それでも自分自身をさらけ出して書き続ける、そういうふうにしか生きていけない愛すべき小説バカの姿。そこから、書く事へのドキドキ感や楽しさ、そして書くことが好きだという想いも伝わってきて、そこが良かったと思います。
5つ物語のリンクは入間作品らしくはありますが、そこまで密接に関わっている感じではないです。ただ、誰かの歩んだ道が誰かの人生の夢を膨らまして、誰かの想いが紆余曲折して他の誰かの行動に繋がっていくような、繋がって流れていく感じが良かったです。円を描くように頭に戻るラスト、あとがきや帯、差し挟まれる選考過程のメタ的な視点も、面白いと思いました。
たぶん本当にやりたいことというのは、探すものでも才能の問題でもなくて、どんなに文句を言っても挫けそうになってもやらずにはいられないこと。その生き方はきっと信じられないほど愚かで、でも人生を最高に楽しいものにするに違いないと、そんなことを感じた一冊でした。