ファンダ・メンダ・マウス / 大間九郎

ファンダ・メンダ・マウス (このライトノベルがすごい!文庫)

ファンダ・メンダ・マウス (このライトノベルがすごい!文庫)

スタートからゴールまでノンストップ躁状態で駆け抜ける愛と暴力の物語。
読み始めた途端に数えきれないほどの「くそったれ」が乱舞する畳み掛けるような口語体の文章。その勢いに乗せられて思わずどんどん読み進めていってしまうような小説です。
横浜港を舞台に繰り広げられる物語は、主人公のマウスにおつむの緩いネーネにジャリ娘なマコチンにAIとオネエなミチルにとクセのある人物たちが動きまわるような展開。助けてくださいと泣きついてきたマコチンから始まり、様々な謎と企みが渦巻き、やがて一つに繋がっていきます。
その展開は滅茶苦茶で破天荒でただひたすらに暴走しているようでもあるのですが、そう見えてこの作品はエンタメとして凄くコントロールされている印象がありました。吹き荒れる暴力や下品さがありながらも、読んでいて引くようなラインは踏み越えないですし、ぶっ飛んだキャラクターたちが走りまわる様子には、どこか愛嬌がある感じ。暴風雨の中に放り込まれて押し流されるような感覚はあるのですが、ただ翻弄されるだけではなくて、その熱量とスピード感で流れていく、原色が入り乱れたような世界にジャンクでポップな魅力を感じるような作品だったと思います。
そしてそんな物語で語られるのは、すべてを受け入れるマウスという男の姿。物語の中心で全てのを惹きつけて、近づくものすべてを受け止めて愛するようなその在り方が、この作品の特徴であり魅力なのかなと思いました。何もかもが無軌道なように見えて、実のところは全てがマウスに向かって流れてきて、マウスの中に落ちていくような印象。善意も悪意も好意も暴力も陰謀も全てに対してフラットに、ただ受け止めて、受け入れること。綺麗なものだけじゃなくて、もっと当たり前に汚くて生々しい世界の中で、その存在の特殊さというのが際立っていたように感じるのです。
そしてそんなマウスの方向性を決定づけた母親の存在。この母親というテーマも何種類かの母親の姿を通じて描かれていて、またその姿は手が届かない絶対的な何かを感じさせるようなもので、受容や愛を描く時に、この作者にとって母性というものは特別な意味を持っているのかなとも思ったり。
そんな感じで思うことは色々ありつつも、本当に単純に読んでいて気持ちの良い、面白い小説だったと思います。次の作品も楽しみにと思うと同時に、この作者がコントロール度外視で物語を紡いだ時にいったい何が生まれてくるのかにも興味が沸いてくるような一冊でした。