煩悩寺 1 / 秋★枝

煩悩寺 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

煩悩寺 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

読んでいると「うきゃー!」と奇声を上げて本を放り投げてしまいそうな、ニヤニヤが止まらなくなってリアルに悶え転がってしまうくらいの破壊力を秘めたマンガでした。これはヤバいです。本当にヤバいです。
兄から送られてくる謎の物品の数々が飾られた部屋「煩悩寺」で暮らしている青年小山田くんと、そんな彼の家にトイレを借りに飛び込んできた小沢さんの出会いから始まる物語。長く付き合ってきた彼氏にふられて傷心の小沢さんが、なんとなく居心地のいい煩悩寺に入り浸るようになって、小山田くんと彼の友人の島本と一緒に過ごす時間がだんだん特別な物になっていって。
そんな感じのノリの変な部屋で変人たちが繰り広げる物語なのですが、煩悩寺という空間の居心地の良さとこの人間関係の絶妙な距離感がとても素敵。当たり前に隣にいるような、変な気遣いとかもなく素の自分でいられる関係。気楽で居心地のいいその関係と、まるで大学の部室みたいなダラダラとした空気の流れるたまり場。会社でストレスに晒されている小沢さんのような社会人が繰り広げる話だからこそ、そういう場が特別で、個人的にも本当に羨ましいなぁと思うことしきりでした。
そしてそこで繰り広げられる人間関係の妙味。いきなりとんでもない出会いで始まって、だから気取るような要素は一切ない居心地の良い関係。それが、だんだん会うことが楽しみになってきて、気がつけば足が煩悩寺に向かっているような小沢さん。ほとんど一目惚れのような状態でも、今の関係を幸せだと思っているような小山田くん。その二人の関係が、ふとしたきっかけからお互いを意識するようになって、すれ違い的なものがあったりしてクライマックスを迎える辺りはもう! 壊したくないから変わらないんじゃなくて、ちょっとずつ、でも確かに色を変えていく物語が大人らしくて、でも大人の恋愛にしたら呆れるほどピュアな展開はたまらないものがありました。
そしてちょっとした仕草や行動、セリフや反応が素晴らしいです。ふとしたことで揺れる繊細な心理描写が良いのですが、それがまたいちいちびっくりするほどプラトニックでもう! もう! 普通の作品だったら、一冊通じて最大の盛り上がりを見せるニヤニヤポイントみたいなものが、ページを捲るたびに出てきて、しかもこれ以上のニヤニヤはないと思ったら次の展開でその上を行くみたいな圧倒的破壊力。いやもう小沢さんかわいいし、小山田くんいい人だし、お前ら早く結婚しちゃえよ! と。
そして私は普段あまり小説やマンガに憧れたりすることはないのですが、この関係は本当に羨ましいなと思うことしきりでした。いやほんと大好きです!