伝説兄妹! / おかもと(仮)

伝説兄妹! (このライトノベルがすごい!文庫)

伝説兄妹! (このライトノベルがすごい!文庫)

世界はそれでも美しいんだよ

働く気は全くもってゼロ。友人に借りた金は返さず絶交寸前、アパートの家賃は収めず追い出される寸前。詩人気取りも才能はからきしで、そのくせ態度だけはどこまでも偉そう。そんなロクでもない大学生柏木が、食料を求めて入った裏山で発見した遺跡で見つけた少女。記憶もないその謎の少女が待つあまりにも素晴らしい詩の才能。それにどす黒い嫉妬を覚えるも、熊に襲われたりなんやかんやしているうちに家まで連れて帰ってきて、彼は純真で従順な少女を表向きは妹な弟子としてデシ子と名づけて一緒に暮らし始めます。
デシ子に対して散々偉そうな態度をとったり、ワガママを言うと理不尽に叱ったり、そのくせ自分の都合には付き合わせたり、ゆるやかにではあっても蹴ったり投げたり、そして挙句の果てにはデシ子の素晴らしい詩を書き写して売りさばいたり。自分勝手で欲望に素直で、プライドが高くて、そのくせ劣等感があるから周りの評価に敏感で、なのに誰よりも孤独を嫌う。そんな清々しいまでに俗物で、言ってしまえばクズみたいな人間の柏木ですが、デシ子に一般常識を教えたり、ご飯やベッドを与えたり、遊びに連れていってやっているのも確かに彼。
だから物語は、神様と世界の話までスケールがアップしていく後半になっても、人間の良いところと悪いところという二面性をテーマに描かれていきます。そして散々デシ子に嫉妬して、利用して、要らなくなったら捨てようとさえ思っていた柏木が、彼女を家族だと認める瞬間。確かに俗物でクズでどうしようもなくて、ダメな人間の代表のような彼が、血の繋がらないたった2ヶ月一緒に暮らしただけの妹のために、ある意味世界を救おうとした神にケンカを、彼らしい俗っぽいやり方で売る瞬間。
それは、世界はロクでもないことに溢れていて、この物語の主人公もまたロクでもなくて、ちっとも綺麗なんかじゃないけれど、それでも美しいのだと。この世界は私たちが幸せになるためにあるのだと感じさせてくれるものでした。
立派じゃない主人公と周りの人達と、やっぱり立派じゃない神様が織り成す物語。だからこそこの作品は、勢いに任せたようなリズム感のある文章と、強引だけどパワーのある展開と、ゴミみたいだけど真っ直ぐな柏木の詩で、無根拠で無責任で、でも何よりも強いエネルギーをこめた全肯定をこの世界に叩き込んでくれるような一冊になっているのだと思いました。読み終えて思わず快哉を叫びたくなるような、気持ちの良い作品だったと思います。面白かったです。