テンペスト 1 春雷 / 池上永一

テンペスト 第一巻 春雷 (角川文庫)

テンペスト 第一巻 春雷 (角川文庫)

圧倒的なスピード感とスケール感。鮮やかな琉球の風景。アクが強く魅力的な登場人物たち。そんな文句なしに面白い物語の幕開けとなる1巻。
琉球の文化や歴史、政治形態に外交関係など、読み始めてからしばらくは戸惑うところも多かったのですが、その壁を乗り越えさせるだけの吸引力がある物語でした。とにかくぐいぐいと読ませる、読めば先が気になるという、シンプルな面白さがあります。
嵐の夜に孫家に生まれた少女真鶴。男子をほしがった父親に無視されながらも隠れて本を読み、勉学に圧倒的な才を発揮していた少女は、厳しい父の扱きに耐えかねた義兄の失踪後、孫寧温と名を変え、男として琉球王朝の国家試験である科試に13歳の史上最年少で挑み、見事合格を射止めます。
物語的には本当に導入となるこの流れだけでも、波乱万丈な彼女の人生を示唆するかのようにいろいろな出来事が起こります。いくつもの出会いと別れ、清と薩摩に挟まれた琉球の置かれた状況、綺羅びやかな琉球の文化と厳しい試験競争、男女の扱いの違い。地の底まで沈み、そこから浮き上がるように乱高下する彼女の生き様は、宦官の評定所筆者として王宮入した後もより勢いを増していきます。
困窮する王国の状況に、周りの男達から異端視され目の敵にされる日々、宦官だから覗けた女の世界のどろどろとした勢力争い。ある時は財政改革の大ナタをふるい、またある時は清と薩摩への対応に奔走し、国のため王のために邁進し続ける寧温の天才的ですらある優秀さ、人を惹きつけるような魅力は、彼女が一役人に収まらない特別な人物であることが伝わってくるもの。それと共に、彼女の周りの人物たちの繰り広げるドラマも魅力十分。一人の少女として薩摩の人へ覚えた感情、そして一番の好敵手から寄せられる想いは、この先の展開に波乱を巻き起こしそう。
政治、経済、国際情勢、権力争いにオカルト的なものから恋愛模様まで飲み込み、それが渾然一体となって押し寄せてくるような迫力の物語の中で、周りに敵を増やし素性も明らかにされそうな寧温の人生がこれからどこへ向かっていくのか、大河ドラマ的な面白さのあるこの物語の先行きが楽しみになる1巻でした。