なれる! SE 2 基礎から学ぶ? 運用構築 / 夏海公司

なれる!SE (2) 基礎から学ぶ?運用構築 (電撃文庫)

なれる!SE (2) 基礎から学ぶ?運用構築 (電撃文庫)

相変わらず読んでいると思わず苦笑いが浮かんでくるお仕事ラノベ。今回は構築部門と運用部門の戦いのお話でした。
作者の人は元SEのようなので、おそらく実体験や聞いた話を元にラノベ的なキャラクターとエンターテイメント的な展開で脚色して物語に仕立てているのだと思うのですが、読んでいるとその元になったものがなんとんなく分かるような気がして心が痛くなってくるという、変な面白さがあります。このあたりは私が社会人でしかも仕事がシステ関連だからこその感覚だと思うのですが、やっぱり自分がよく知っているものがライトノベルとして作品化されていると、普通とは別の楽しみ方ができるなと感じます。
そんな訳で、工兵が始めて担当の飲み会の幹事をするというなんともいえない導入から始まる展開は、飲み屋で出会った維持運用部門OS部の姪乃浜梢に出会い、しかもそれが室見が今抱えている案件で揉めている相手だったことから色々と大変なことに。設計・構築を担うSE部と維持・運用を担うOS部ではリスクの考え方が違って、それ故に維持への引継ぎでぶつかる。お互いギリギリの状況で動いているような状態の会社なので、一歩も引けずに揉めに揉め、室見と梢のコミュニケーション下手で頑固な性格も相まって、話はこじれにこじれるという最悪の状況。
そんなところにぽんと放り込まれた挙句、上長に二人の知り合いなら間を取り持ってよと丸投げされる工兵は相当な災難ですが、なんだかんだで上手くやってのける辺りは本当によくできた子だなと思いました。難しい社内調整を一匹狼系エンジニアたちがこじらせたところに、技術はまだ全然だけどコミュニケーションに長けた工兵がおさめるというのは、お互いを補いあうような良いバランスで、お仕事ものとしても読んでいて面白いです。
そしてそこに室見と梢の工兵に対する想いがチラチラと見えるのも、王道ではありますがこの話にそういう要素を無理なく入れてきたのが上手いと思いました。ちゃんとSEお仕事ものでもあり、ラノベ的な話でもあるというのが、この作品が一発ネタに終わらずに、2巻にきてますます面白くなっている要因なのかなと感じます。
でもなんというか、普段調整業務ばかりやっている身としては、お互い引くに引けない状況で妥協点すら見えない社内調整とか本当にもう胃が痛いんでやめてください。あと、梢がラストで語る失敗談とかも超耳に痛いのでマジでやめてください……。
キャラクター的には新キャラの梢がオドオド系でもっさい感じの女の子なのですが、エンジニアとしての実力と矜持は持ち合わせている感じで良かったです。そして室見さんが相変わらず技術屋としてはプロフェッショナルでも他が壊滅している大変ピーキーな感じで痺れます。私はこういう極端なキャラクター好きなのですが、さすがに今回のラストの対応は社会人としてどうかと思わなくもなかったり。
そんな彼女たちが衝突するわけですが、クライマックスでのトラブル発生からの二人の共闘は熱かったですし、仕事でも感情よりもプロとして譲れない一線で争っている感じで、工兵も言うとおり、なんだかんだでこの二人仲いいんじゃないかとも思います。そして何より、こういうお互いの力は認めた上での関係と、そんな二人が力をあわせる瞬間は大変美味しいと思うのです。
そんな感じでSEという設定に王道なストーリーがしっかり噛みあって面白かったです。まさかまさかなラブ展開の予感もあって、この先がより楽しみになってくる一冊でした。