可夢偉! 可夢偉! 可夢偉!

F1日本GPレッドブルの1-2、そしてベッテルの完璧なレースでしたが、日本人ファンに取っては、とにかく今日は可夢偉が凄まじかったレースでした。こんなに面白かったGPは久しぶりだし、こんなに興奮したレースは今までにだってどれだけあったか。
予選はQ2のセクター3でミスをしてQ3進出を逃し、決勝中盤までもオーバーテイクを見せつつもプライムタイヤでのスタートは作戦ミスだったかなという感じだったのです。それでも粘り強く走って、12位で復帰したあと、フレッシュなオプションタイヤを活かした鬼気迫る追撃は、本当に何か夢を見ているんじゃないかと。アルグエルスアリをヘアピンでアウトから! かわし、その際の接触でダメージを追いながらも、スーティルのリタイアで入賞圏内へ。そこから前のバリチェロをあっという間に追い詰めると、ヘアピンで目の覚めるような突っ込みを見せてオーバーテイク。チームメイトのハイドフェルドは安全にパスして、ロズベルグのリタイアもあり結果は7位。たった10周ほどで12位から7位へ。オーバーテイクの難しいと言われる今のF1で、その中でも抜き辛いコースと言われる鈴鹿で。
もちろん、予選でミスをしなければ始めからシューマッハバリチェロとレースをして、もしかしたらもっと上位に入っていたかもしれません。でも、この追撃を見せたからこそ、日本中に、そして世界のF1ファンに、小林可夢偉ここにありを見せつけるようなレースだったと思います。間違いなくレース終盤、コース上の主役は可夢偉だったし、特別なレーサーであることをこれ以上なく示したレースだったと思います。
私は物心付く前から、いわゆる中嶋悟参戦によるブームで父親がよく見ていたF1が身近にあって、もうかれこれ20年以上、生活の中にF1を見ることは当たり前に組み込まれていて、だからF1がヨーロッパのスポーツであって、日本人がそこにいてもいなくても見続けるのだろうと思っています。実際、日本人や日本メーカーに期待できない時でも、F1であるというだけで私にとっては見るに十分だったし、特に誰かを応援するのでなくてもレースは面白いと思っています。
それでも、日本に生まれたものとして、そんな近くて遠いF1の舞台で、日本のドライバーが活躍して欲しいと思わないわけがないのです。けれど、F1に挑戦してきたたくさんの日本人ドライバーは、あともう少しのところで壁を超えられなかった。片山右京に、高木虎之介に、佐藤琢磨に、中嶋一貴に、期待をして期待をして、それでもF1のトップという壁は高かった。
でも、小林可夢偉がそんな壁を破って見せてくれるんじゃないかという期待が、今こうして、現実的なものになりつつあります。確かな力で世界を驚かせ、鮮やかな結果を残して自分は他のドライバーとは違うんだと思わせる。トップドライバーたちがルーキー時代に放ってきたそんな輝きを、小林可夢偉が今見せてくれています。
中嶋悟のF1デビューから23年。ヨーロッパとブラジルのドライバーが席巻するF1の世界に描いた夢が、今こうして目の前で一人の日本人ドライバーによって現実のものになろうとしている。不況によって日本のメーカーは次々と撤退を決め、F1にかつてのような人気はありません。でも、日本には小林可夢偉がいるのだと信じさせてくれる。
まだ可夢偉自身のミスも多くて、チームも決して強力とは言えなくて、現実的に表彰台を狙うことは難しい状況ではあります。けれど、今までの日本人ドライバーがたどり着けなかった壁の向こう側へ、確実に片手はかかっていると思うのです。さらなる活躍を見せて、トップチームで走り、表彰台に登り、優勝争いをして、チャンピオンシップに挑む。私たちが焦がれ続けたそんな夢物語を、きっと可夢偉なら現実のものにしてくれる。今日の鈴鹿は、そう信じさせてくれる本当に見事な走りだったと思います。