変態王子と笑わない猫。 / さがら総

変態王子と笑わない猫。 (MF文庫J)

変態王子と笑わない猫。 (MF文庫J)

建前を失った少年と、本音を失った少女と、建前増量中な少女。そんな3人の繰り広げるドタバタラブコメディ。
建前ばかりで大事なことが言えずに失敗してばかりだった自分を変えたいと「笑わない猫像」に祈った横寺陽人は、脳と口が直結したかのごとくピンク色な妄想ダダ漏れとなって、周りから変態王子と呼ばれるように。そして同じく「笑わない猫像」に祈った筒隠月子は、表に出す表情を失って無表情娘に。そんな2人が建前と本音を取り戻そうとする物語は、陽人の建前を押し付けられて素直になれなくなっていた小豆梓も巻き込んで、テンポよく軽快に駆け抜けていきます。
それぞれがそれぞれに抱えた事情と、今置かれた状況が重なってこじれて、惹かれたりすれ違ったり、近づいたりぶつかったりする青春模様はとてもラブコメ的。可哀想な女の子を男の子が助けていくようなタイプのラブコメものは、都合の良さが鼻について正直ちょっと苦手なところもあるのですが、この作品は心理描写がしっかりしているのでそれほど気にならずに読めました。本音ダダ漏れ変態男な陽人ですが、間抜けでで鈍感で、でもまっすぐにぶつかっていくところはむしろ清々しくて、そんな彼と少女たちの交流はスピード感がありながらもどこか柔らかい雰囲気があって良かったです。
そして特に面白かったのはキャラクター。月子はいわゆる無表情娘系だし、小豆梓はいわゆるツンデレ系なのですが、二人とも「笑わない猫像」の力で本音を表に出せない状況にあるのがあらかじめ分かっているというのがこの作品のミソ。無表情で淡々と繰り出される言葉自体も月子の魅力ですが、そのちょっとした言葉選びや行動から無表情の向こう側にある本当は豊かなはずの感情がすけて見えますし、取り繕って強がった言葉を吐き続ける小豆梓がその向こう側に持った弱さもしっかり形のあるものとして感じられる。そういうひとひねりされた部分がこの物語の魅力となっているのかなと思いました。
そんな感じで、こういうタイプのラブコメ作品はあまり好みではないのですが、それでも楽しめた一冊。さすが新人賞の最優秀賞作品という完成度の作品だったと思います。
ところで、筒隠月子みたいな子に懐かれたり頼られたりたしなめられたりしたいのですが私はどうしたらいいでしょうか可愛いなもう!