二年四組 交換日記 腐ったリンゴはくさらない / 朝田雅康

二年四組 交換日記 腐ったリンゴはくさらない (集英社スーパーダッシュ文庫)

二年四組 交換日記 腐ったリンゴはくさらない (集英社スーパーダッシュ文庫)

パズル的な試みあり、35名のキャラクターたちが動きまわる楽しさありの一冊。これは面白かった!
35人の問題児たちが集められた二年四組。そんなクラスを舞台に繰り広げられる物語なのですが、まず読者に与えられるのは「サムライ」「モデル」「インドア男」のようにあだ名だけが記載されたクラス名簿。なので始まるのは、交換日記という形式で日替わりで書き手の変わる本文中から情報をすくい上げて本名を埋めるというパズルで、これがなかなか面白いです。そして100ページほどでだいたいの名前が埋まる頃には、クラスの35人全員のキャラクターやクラス内の派閥、それぞれの立ち位置がおおよそ頭の中に入っているというところが画期的。もちろんキャラクターがそれぞれに立っていることもありますが、これだけの人数を一気に出しながら、パズルを解かせることで読者の頭の中に自然にインプットさせるのは凄いと思いました。あと、キャラクターが立っていると言っても、ぎりぎりのラインで嫌味にならないバランス感覚が素晴らしいです。このあたりはさっぱりとしながら35人をしっかり描き分けたイラストの力もあるのかも。
そしてそんなパズル的な序盤が終わって始まるのは、ちょっと頭のネジが吹き飛んだ問題児ばかりの二年四組の面々が巻き込まれる多彩な事件。あっちでは色恋沙汰でバタバタして、こっちでは国際問題に繋がり兼ねない事件に巻き込まれ、またこっちでは詐欺事件を追いかけてと、てんでバラバラなことをしているようで、それが繋がってきたりこなかったり。
この辺の作り方は、35人のキャラクターの役割と行動と関係を細かく設定して、その上で事件をそれぞれに転がしている感じで、ジオラマ的な舞台で繰り広げられる出来事を観察しているような感覚。そしてその観察の仕方が、交換日記と言う形で日替わりでクラスの誰かが語るものを読む形なのですが、それがまたちょっと趣味の悪いのぞき見をしている感覚があって面白いです。クラス内の色々人間関係とか恋愛模様とかあれやこれやが、色々な子の視点から描かれていくのを、見ちゃいけないものまで含めて見ているような背徳感。クラスであまり仲良くない子たちのうわさ話をつい立ち聞きしてしまったようなそんな感覚が、この作品の一つの醍醐味かなと思うのです。
物語自体は、私が細かい部分を追いきれていないところもあるとは思うのですが、もう少しスマートに見せてくれたほうが好みかなとも。クラスのボスたる委員長や、裏ボスな子がいるにはいても、みんなそれぞれバラバラに動いているだけなのがこの物語の特徴ではあるのですが、それにしても発散し過ぎかなという気はしなくもありません。とはいえ、それぞれキャラの立った子たちが、好き勝手に動き回っているだけでそれはそれで楽しく。派閥とかはあるくせに超個人主義者ばかりなのがクラスの雰囲気をどろどろさせないで、まとまりはないけどなんとなく巡りあわせで同方向を向いた、みたいなサバサバした感じはすごく好きです。
そんなクラスの中では、すぐに手が出る制裁男と何故か彼と一緒にいるハツラツ娘の恋模様や、クラスの裏ボスなある人物の超人っぷりが良かったかなと。とくに裏ボスな子と虐待男の関係は、個人的にすごく美味しいと思います。あとサムライと腹黒はなんだかんだ反発しながら絶対将来警察と代議士になっても腐れ縁続けていくよね!
そんな感じでここからまだいくらでも物語が生まれてきそうで、もっともっとこのクラスを観察していたい気分にさせてくれた一冊。続編待っています!