猫物語(白) / 西尾維新

猫物語 (白) (講談社BOX)

猫物語 (白) (講談社BOX)

「全部私だよ」

猫物語(黒)で改めて感じた羽川翼というキャラクターの異常性を、語り手を羽川に移すことで解体して、もう一度ここから始めるための物語。このシリーズを読み続けて良かったと思えるくらいに、素晴らしい1冊でした。
このシリーズで初めて語り手が阿良々木暦から移っていつも内容の半分近くを占める掛け合いはすっかり少なくなり、その分まで描かれるのは羽川翼の物語。羽川家が全焼する火事から、戦場ヶ原家に泊めてもらったり、阿良々木家に泊めてもらったりしながら、振り返るのは羽川翼というキャラクターの在り方。
外から見ると聖人君子のようで、何でも知っていていつでも正しくて、そうでありつづけることがどこまでも異常だった羽川。自分の感情はどこにあろうと、それとは別の倫理で行動できてしまう彼女が、そうであった理由。今まで語られてきた羽川家での彼女の扱い、そして街中で出会った虎、戦場ヶ原や阿良々木シスターズとの会話、そして再び登場のブラック羽川。それらを通じて、見えてきたのはあまりにも哀しい現実でした。
全てのマイナスの感情を自分の心から切り離して、つらいことから目をそらし逃げ続け、そうすることで生きてきた人生。誰にも頼れず、全てを自分で抱え込んで、だからこそそう生きるしか無かった彼女が、阿良々木暦戦場ヶ原ひたぎとの出会い、怪異との関わりの中で、今もう一度自分自身と向き合う決意をして。
そして羽川がもう一人の自分に宛てた手紙からの流れは素晴らしかったです。誰しも何かから目を背けて生きているのに、すべてを受け止めようとした危うさと強さ。誰にも頼れなかった彼女が託した想いをもう一人の彼女が受け止めて、虎に立ち向かう展開。自分でしか助かれないから、自分で勝手に助かろうとしたその先に、ヒーローとして現れる彼の存在。いろいろな人との関係を作り直して、羽川翼羽川翼として生きていくための後日譚。短いページの中に、羽川を取り巻いてきた色々なものを乗り越えるたくさんのことがぎゅっと詰まっていて、もっともっとと盛り上げていく展開のカタルシスには思わず目頭の熱くなるものがありました。
羽川との関わりの中で描かれていた戦場ヶ原の変化。そして羽川の変化。当たり前に生きられなかった人たちが、人との関わりの中で当たり前に生きるため変わっていく。そういう意味でやっぱりこのシリーズは憑き物落としの物語で、そして仕方のないことも辛いことも楽しいことも全部含めて、自分自身を生きていく人のための物語なのだと感じます。
ここからまた始められる。だからきっと、大丈夫だよと。