@HOME 我が家の姉は暴君です。 / 藤原祐

@HOME 我が家の姉は暴君です。 (電撃文庫)

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唐突に事故で両親を失い、目の前で繰り広げられるのは親類たちの醜い争い。そんな響の前に現れたヤクザのような男と毒舌の少女。これは、叔母の養子たちが暮らしている倉須家に7人目の兄弟として引き取られた響と血の繋がらない家族たちの物語。
あまりにも突然に奪われたことで、現実感覚を失ったまま倉須家へと移った響を待っていた日常は兄が1人、姉が2人、妹が2人に妹だか弟だ変わらないのが1人という奇人変人揃いの兄弟たちとの生活。転校先の高校でも倉須の名前で一歩引かれる有名人な一家の中でも、この一巻では姉のリリィが中心に描かれています。
響に対して暴君のように振る舞うリリィの想い。叔父と叔母はもうこの世に泣く、血の繋がらない倉須のきょうだいが家族として生きるために必要なこと。他人だからこそ、どこまでも強い家族への想い。毒舌でめちゃくちゃなリリィの行動の向こう側にあるその想いの強さが、固まっていた響の心を動かして、倉須響としての一歩を踏み出させるところがとても素敵でした。
この物語で面白いと思ったのは、視点が響だけに固定されていないこと。家を支える立場にある長男の高遠や長女の礼兎の会話や、一番下の妹である耶衣と芽々子が遊んでいる一コマ。そういう視点が入ることで、倉須家という集まりがどういうものであるのかが全体として見えてくるのが、単に響の物語なだけではなくて、これは家族の物語なのだと感じられて良かったです。
そしてそんな中でうっすらと見えてくるのは、倉須家が抱えた事情。芽々子の家族依存症をはじめ、一人一人が個性的でそして何かを抱えていること。倉須の血を引いた響に対する想い。養子として家族と別れた子供たちが何一つ欠けることなく幸せな訳ではなくて、綺麗なことだけじゃない何かを抱えているから、家に対する想いの強さもきっとあるのだろうと思います。それは当然この先、諍いの種や大きな問題になることもあるのだとも感じます。
でも、そういう歪なものも当たり前のように抱えた上で、本当は血の繋がっていない彼らが、純粋で真っ直ぐで、何よりも強い家族の絆を、その繋がりを見せてくれることを信じたいと思うのです。そういう、作者が他のシリーズでも描いてきたような、暗がりの中の一筋の希望のような関係に期待して、続きを待っていたいと思います。