カツラ美容室別室 / 山崎ナオコーラ

カツラ美容室別室 (河出文庫)

カツラ美容室別室 (河出文庫)

繋がっているようで繋がっていない、そんな人間関係を描いた作品。
主人公の佐藤と友人の梅田さん、その梅田さんに紹介された桂美容室別室のカツラの美容師カツラさん、そのお店で働くエリと桃井さんを中心に、その人間関係を描いていくような小説です。
主人公とエリの間に生まれる、近づくけれども一線は超えないような関係。二人きりかと思えば三人になっていたりしてお互いあと一歩は踏み出さなくて、タイミングなのか、その気がなかったのか、なんとなくな感じの関係が続いていくような感じ。一見そういうところを男女の友情は成り立つのかということをテーマに描いている感じなのですが、個人的には、男女だからとか恋と友情とかではなく、人間関係そのものを描いた作品であるように感じました。
仲は良い。隣にいる。人間なので、嫌なところもあれば好きなところもあって、面倒くさかったり楽しかったりする。そういう意味ではちゃんと感情があって人間らしさを感じるのに、この人達はこれほど近くにいても、絶対に混ざらないという感じが読んでいてするのです。どれほど距離が近づいても、どこかで明確に線引きされているような感じ。人と人との関係の中で、それは凄く奇妙に思えて、読んでいて気持ち悪さと「なんで?」という疑問符がつきまとうような感覚がありました。
とはいえ、自分をはっきりさせるための他人の存在というものは、主人公の感覚として凄く自覚的に描かれている訳で、この作品はそこに興味がない訳ではありません。他人というものを明確に意識して、自己と他人の関係を、繋がっているようで繋がらない感覚で捉えた、そんな小説。お互いを自分をさらけ出して、これからもずっと続くと信じて、なのにどこか断絶したような関係。それがが現代っぽいのだと言われるとなんだか首を傾げたくなるところもあるのですが、その奇妙な在り方は興味深いものだったと思います。