GOSICK 7 薔薇色の人生 / 桜庭一樹

とにもかくにも、まず続きが読めるということが嬉しいGOSICK最新刊は、これまでのGOSICKにその間に桜庭一樹の描いてきたものを詰め込んだような1冊でした。
久城とヴィクトリカ。これまでも影のように二人の背後に迫っていることが示唆されていた、おおきな嵐。それがついに明確なものとして、おおきなおおきな流れを作っていくような物語。キャラクターの魅力はもちろんですが、その流れに、その中で見える綺羅びやかな光と薄暗い影のイメージに圧倒されます。
国王と科学アカデミーのロジェ。オカルト省の重鎮にしてヴィクトリカ父親であるアルベール・ド・ブロワ。そして彼が生み出した灰色狼、ソヴュールの秘密兵器であるヴィクトリカ・ド・ブロワ。欧州の架空の小国と明示されない極東の島国の二人でも、時代、その影、あの世界大戦が確かに迫ってきていると分かる不穏な空気。その中で、キャラクターたちが流れにのって動いているような感覚。そしてそんな、ある種神話めいたおおきな流れの中で、一瞬きらめく幻想と現実を綯い交ぜにしたような瞬間。

「――薔薇色の人生!」

コルデリア・ギャロとジンジャー・パイの回想の中で描かれる劇場と踊り子たちのイメージは鮮烈で、舞台上のまぶしさとその裏にある生活は生き生きとしています。個人個人の人生やディティールというよりも、もっと大きな生きるものの手触りというか抽象的なイメージ、そういうものを感じる描写はなるほど最近の桜庭作品という感じ。そのイメージの持っているエネルギーに当てられて、思わず物語に呑み込まれるような魅力があります。
そして現在綺羅びやかな過去、失われた過去、けれど今も残る劇場の輝き。暗い舞台裏の廊下、おおきな嵐、不穏な未来。様々なイメージの入り交じった劇場のみせる光と影のイメージもため息が出るようなもの。特に、中盤ブロワ侯爵とヴィクトリカの対峙するシーン。二人の間を、過去の亡霊のような、あの頃の華やかな世界が駆け抜けていく、その瞬間に圧倒されました。
物語としては、決意を固めて頼もしくなった久城と久城に心を許していることが伝わっているヴィクトリカ。嵐の前の小さな子供である二人が、抱いた想いの強さと絆の固さにぐっとくるものがあったり、母、コルデリア・ギャロの壮絶な人生におののいたりと盛り沢山な内容。そんな物語の端々からもキャラクターたちが選んだ生き方からも、桜庭一樹らしさを強く感じる作品になっていました。
ちなみに、ミステリ的にはトリックはたぶんそうだろうとすぐに気がついたのに、イメージに圧倒されているうちにすっかり忘れて、最後の最後で普通にびっくりしてとても悔しかったです。でも、救いのある終わり方だったのは良かったなと思います。
そんな感じで、ただただ圧倒されて、読み終えてため息の出るような、素晴らしい一冊でした。ここから短篇集、そして完結編となる8巻が立て続けに出版されるとのこと。本当に、楽しみに待っています。