小説家の作り方 / 野崎まど

小説家の作り方 (メディアワークス文庫)

小説家の作り方 (メディアワークス文庫)

駆け出し小説家の物実のところに小説の書き方を教えて欲しいと言って現れた「この世で一番面白い小説」のアイデアを思いついたという女性 紫。思いっきり世間ずれした彼女に小説を教える不思議な日々は、「この世で一番面白い小説」とはなんなのか、紫依代は何者なのかという謎へと進んでいきます。
野崎まどという作家は常に「得体のしれないもの」を描こうとしている作家なんだなと再認識する一冊。デビュー作からこの作品まで常に描かれるのはそういうもので、それがある時はゾッとするほどの恐怖や気味の悪さだったり、またある時は脱力モノの展開だったりに繋がっているのだなと思います。そんな「得体のしれないもの」が本作では「この世で一番面白い小説」。そしてそう思って読んでいると不意打ちで訪れる……なのですが、そこはネタバレになるので伏せたままで。とにもかくにも、どこまでが何によってコントロールされているのか、人の手の届かない何かはどこに存在するものなのか、そういった「得体のしれないもの」ものが小説家を作る小説家を描いたこの作品には詰まっているのだと思いました。
そしてまたこの作品の面白さなのは、ズレた掛け合いの面白さ。基本的にはリアルな世界に投げ込まれたちょっと突拍子も無い性格の女性。何かのギャグみたいに世間ずれした、何もかも知っているようで何も知らない境地にある紫と、ごく普通の小説家である物実の掛け合いは、大真面目な顔をして変なことを言っているようなシュールさに満ちていてとても面白いです。正直最初はどう受け止めればいいのか分からないところもあったのですが、ソフトクリームを食べる話のくだりまできて思わず吹き出してからは、不意打ち気味にやってくるそれが非常に楽しいものに。もともと変な掛け合いを書く人だとは思っていたのですが、それがだんだん上手くなってここに来て一つの形になっているような印象があります。
野崎まどという人は、デビュー作である「[映]アムリタ」の鮮烈さが強烈すぎて、新作が出るたびに私の中でどうしてもそれと比べてしまう作家ではあるのですが、同じテーマを持ちながらそれとは違う方向で面白い作品となっていると感じる一冊でした。鳥肌の立つような鮮烈さはここにはありませんが、どこか人を喰ったようなシュールさとズレた掛け合いの魅力に溢れた、とても面白い小説だと思います。