ささみさん@がんばらない 5 / 日日日

ささみさん@がんばらない 5 (ガガガ文庫)

ささみさん@がんばらない 5 (ガガガ文庫)

好きになる本の中には、とにかく凄い! とかここが面白い! という作品がある他方、上手く説明できないけれどとにかく好きで仕方がないという作品があって、これは私にとって後者の作品なんじゃないかと思いあたったシリーズ5冊目。なんだかよく分からないけれど、読んでいるとすごくしっくりくる感じ。私はきっとこのシリーズが大好きです。
ギリシアの神々が始めた「現代のトロイア戦争」の改変に巻き込まれた日本とささみさんたち。それぞれに役割を振られて、現実とネットゲームとギリシア神話をまぜこぜにしたような一大イベントに参加するという話です。
とにかく全てが極端な方向に行きがちな、振れ幅の大きな物語でした。ネットゲームとギリシア神話を重ねあわせて、そこに日本神話を放り込みながら、日本の命運とささみさんや情雨の極々私的な物語がいっぺんに展開していくようなストーリー。神話をベースにして物凄く作りこまれているくせに、妙なところでファジーな設定。下ネタまで含めて基本ネタまみれなのに、ふいに生身の感情をさらけ出すような文章。あちこちに飛ぶ視点に物語の中心を避けて回るようなトリッキーな構成。なにもかも過剰で、古いものも新しいものも大きな話も小さな話も適当に混ぜ合わせているようなアンバランスさで、けれど不安定に安定していて、読んでいると心がざわざわして落ち着くみたいな感じ。この引き寄せられ方は、なんというかもう波長が合うとしか表現のしようがありません。
重たすぎる運命を背負わされた少女たち、それでも無理にでも頑張ろうとする「まつろわぬものアラハバキ」である情雨と、「月読の巫女」であることをやめたささみさん。生まれに翻弄されて縛られて、それでも捨てられない気持ちと意地を抱えて。不器用な彼女たちが馬鹿げた大騒ぎの中で、ネタまみれの文章の中で時折見せる、生の感情。不確かな中で揺れているざらざらした、不意打ち気味に訪れるその感触に何度もやられました。そして、彼女らの周りにいる者たちの見せた覚悟にも。
基本的に定められたものはどうしようもなくて、テンションはダウナーに後ろ向きで、けれど絶望より手前でもがいて、祈って、がんばっている感情のゆらぎ。そこに感じる痛ましさと切実さと、そこで触れ合った感情から生まれた希望未満の何かの匂いが、たぶん私は好きなのだと思います。
喪失からもう一度前へ、舞台はまさかのインド神話へ。6巻も楽しみです。