煉獄姫 3幕 / 藤原祐

煉獄姫〈3幕〉 (電撃文庫)

煉獄姫〈3幕〉 (電撃文庫)

シリーズの中で大きな物語が動き始めたという感じの3巻。
なによりもまず、暗躍していたユヴィオールがついに動き始めたという印象がありました。彼が国にと対して何をしようとしているのか、そしてどういう考えを持っているのか。単純に破壊をもたらす悪役ではないことが見えてきたのは今後の展開が楽しみだなと。そして彼のもとに集った実力者たちのアクの強さも良い感じでした。
そして王宮の中での動きや国全体を動かそうとする流れというものも見えてきたり。ただ、その描写はあまりどろどろした政治劇になることはなく、どちらかというと淡々とした感じで、焦点が当たっているのはその中でのフォグやアルトたちキャラクターの姿なのかなと。
その中でも、アルトにとって家族というものが、マーガレットとの関係やラストの展開の中で焦点を当てられていた感じです。アルト、フォグ、イオと閉じている関係性が基本なのかと思っていただけに、ちょっと意外な感じもしましたが、歪な形の家族の中で繋がりを描こうとする辺りは作者らしいところと思います。
そしてフォグの方は相変わらず冷静そうに見えて、頭に血が上ると暴走する気があってかなり危うい感じ。この辺りは今後シリーズが進む中でどういう成長をしていくのかが楽しみな部分はあります。それから印象に残ったのは、そんなフォグに屈辱を味合わされ無力感に沈んだ貴族の少年キアス君。なんとかその悔しさをバネにして、マーガレット姫を護る騎士として強く真っ直ぐ育って欲しいものですが、こう道を踏み外しそうな気配が濃厚に漂っているのがなんとも……。
その他にもたくさんの新キャラクターも登場し、レキュリィ&カルブルックと刺客たちのバトル、そしてクライマックスのバトルと奥の手がお披露目となるシーンも面白かったです。ただ、シリーズ的にはここからのための準備の巻という感じで、単巻で見ると少し物足りなさもある一冊。役者が揃い情勢も明確になって、ここからどんどん面白くなっていきそうな感じなので、続きを楽しみにしていたいと思います。