STEINS;GATE―シュタインズ・ゲート― 円環連鎖のウロボロス2 / 5pb.×ニトロプラス・海羽超史郎

完結となる2巻は900ページに迫る大長編。読み終わって、この作品は一人の大馬鹿野郎が、世界線にタイムマシンに世界の命運という大きすぎる話に向きあって、すべてを踏みにじったとしてもただ仲間を守ろうと何よりもエゴを通して、あがいてもがいて死ぬような想いをして、ようやく行く手を阻む壁の向こう側に手をかけたような、そんな物語だったのだと思いました。
まゆりの死という現実を前にして、タイムリープをはかった岡部。そこから始まるのは、どうしても変えられない結末を変えるための、彼の長い闘いでした、繰り返し描かれるまゆりの死の容赦の無さと追い詰められていく岡部の様子で一気に加速する物語は、1巻で仕込まれていた伏線を活かして、この世界で何が起きているかを解き明かしながら進んでいきます。それは、1巻でただ世界が変わったという結果だけが示されていた、その仕掛けを解きながら、同時に変えてしまった世界を戻していくような工程。タイムリープマシン、Dメール、SERN、世界線、そしてそれぞれのキャラクターたち。色々なものがからみ合って、何重もの壁で包まれていった世界を、内側から一枚づつ破って、外に這い出していくような話でした。
複雑さと、完璧ではない穴併せ持った時間と世界の概念を巡る話は、岡部だけが世界線を超えたことを感知できるということからなんとか1つのストーリーを形作りますが、話をすすめるにつれそれだけではないことが分かってきます。とはいえ、やはり物語としてはこの一人の語り手から語られるという込み入った背景を持たせながら、巧妙に仕組まれていた1巻の伏線を解き明かしていく物語の組み立ては、この分量をよくもまとめきったものだと感心してしまうほど。なおかつ、予想以上の展開が飛び出てくるので油断なりません。
そしてそのなかでもがく岡部というキャラクターの魅力。厨二病の仮面の下に居る、ごく普通の青年の顔。天才でもない、特別優れたわけでもないけれど、とにかく諦めない往生際の悪さ。そして仲間想いで、救いがたいくらい愚直な彼が、背負ってしまった重すぎる運命。そんな彼の闘いは孤独なものになるはずで、それでも孤独にならなかったのは、タイムリープのループの前に出会っていたラボメンたちの存在。クリスに、ダルに、鈴羽になんども救われて、岡部の闘いは続きます。ただ、その闘いは基本的にすべてをなかったことにするためのもの。まゆりを救う世界線のために、築いてきたもの全てをなかったことにして、それでも進み続けなければならない岡部。だからこそ、最後に現れた問題は、その集大成のように彼に迫ってくるもので。
中盤の展開は、キャラクターの数だけ解決すべき課題のバリエーションが続くような形でちょっと辛い面もあって、面白いことは面白いけれど、これはノベライズの厳しい部分なのかなと思っていたのですが、この終盤からの展開はそういう事だったのかという驚きとこれからどうなるのかというワクワク感があって良かったです。そしてそこで、何もかもを手放すこと、踏みにじることで前に進んできた岡部が、なかったことになった全ては無駄じゃなかったと、そのすべてを一身に背負って、世界を騙し、自分を騙し、世界線の向こうを目指す辺りはまさにクライマックス。これは熱かったです。
仲間たちとの関係、タイムトラベルや世界線という要素、キャラクターの魅力に、定められた運命を打破するというシンプルな熱さ。そして、クリスと岡部という二人の関係。助手でツンデレで面倒くさいやつで隠れちゃねらーなクリスと過ごしてきた大切な時間さえ何度もなかったことにしながらも、その果てにあのラストシーンがあったから。ご都合主義と言ってしまえばその通りであっても、その時間をずっと一緒に歩んできた読者としては、本当に救われた想いがする瞬間でした。そして、過去の楽しかった日々ではなく、ここから先の未来に希望を持てるような。
そんな感じで、読み終わって非常に満足感のある一冊でした。そして、まだまだ語る余地がいくらでもありそうな物語だけに、メディアミックスがこれだけされているということに納得すると共に、ついうっかり色々手を出してしまいそうになるのでした。面白かったです。