Fate/Zero 4〜6 / 虚淵玄

Fate/Zero(4)散りゆく者たち (星海社文庫)

Fate/Zero(4)散りゆく者たち (星海社文庫)

Fate/Zero(5)闇の胎動 (星海社文庫)

Fate/Zero(5)闇の胎動 (星海社文庫)

Fate/Zero(6)煉獄の炎 (星海社文庫)

Fate/Zero(6)煉獄の炎 (星海社文庫)

物語が一気に加速する4巻から、第四次聖杯戦争の終焉と未来へ繋がるものを描いた6巻まで、ノンストップに圧倒的な迫力で描かれたFate/Zeroの後半3冊。惹きこまれました。素晴らしかったです。
聖杯を目指したマスターと英霊たち。それぞれのキャラクター、それぞれの想い、そして関係性。7人のマスターに7人のサーヴァントというキャラクターの多さでありながら、そこにある物語はしっかりと描かれて、ただの数合わせになっていないところがお見事。
真正面からぶつかりながら、その心は消して交わることのなかった切嗣と綺礼の因縁。切嗣にその身を捧げたアイリスフィールと舞弥の存在。そして切嗣の抱えた絶望と、手段を選ばずに目指そうとした理想の形。その切嗣のやり方とあいいれず、ただ聖杯は切嗣が使うべきとしたセイバー。そのセイバーとランサーの見せた騎士道の形と皮肉な結末。バーサーカーとセイバーの間にあったものの正体。最後まで上に立ち続けたアーチャーと己というものを自覚する綺礼。魔術師の理にどこまでも正しかった時臣と、魔術師の家で普通の人間の幸せを願ってしまった雁夜。そして、ウェイバーの成長とライダーの見せた王道。
その全てに魅力があり、そしてこれ以外にも確かに物語があって、それが聖杯戦争という1つの形を成していく。どれか1つを取り出しただけでも十分に一つの作品になりそうなほどの物語を紡ぎ合わせるこの妥協の無さが、作品全体の持つパワーに繋がっているのだと思います。
そして胸踊るような闘いに、痛切さを感じる聖杯戦争の結末。F15戦闘機と英霊のドッグファイトや、一時の共闘となった怪獣大決戦、そしてモンスターマシンと宝具のチェイス。作者の趣味色全開でありながら、作品に無理やりなじませたような力技の展開も、男の子的なワクワク感にあふれていて非常に面白かったです。その他にもあらぬ限りの美味しい展開を詰め込んだまさに渾身作という感じ。
stay nightの前日譚であるこの作品で、聖杯戦争はバッドエンドへ向かって突き進みます。そこにあったのは、それぞれの想いがぶつかり交わった先の帰結であり、聖杯がそうであったことがもたらした災悪でした。そしてその中で描かれる、衛宮切嗣、外道をもって正義をなそうとした男の結末は痛ましく、重かったです。セイバーというサーヴァントも、切嗣というマスターも、やり方は正反対でも正義に、理想に殉じようとした姿勢は似たもの同士なのだと思います。だからこその弱さは、結局破滅への道を走らせてしまい、この結末を迎えた。
そして物語は、理想に重さに潰された二人のその先を、切嗣にとって最後に残った希望となった、士郎へと託すようにして終りを迎えます。切嗣に出来なかったことを、セイバーと共に、士郎ならば叶えられるのではないかという期待を持たせて。私はFate/stay nightを読んでいないのですが、そのメインキャラクターとなる士郎、そして時臣と凛、雁夜と桜の物語で描かれた、この先を読んでみたいと思わせてくれる作品だったと思います。
そしてそんな苦味を残す作品の中で、バランスを取るかのようにまっすぐな成長譚を見せてくれたのがウェイバーとライダーでした。己の実力で見返してやると覚悟もなく飛び込んだ聖杯戦争。滅茶苦茶で破格なサーヴァントに振り回されて、泣き言を吐きながらもくじけずに、自分自身の弱さを知り、そして隣に立つ大王の姿を見続けた少年。その短いようで濃密な時間の果てにライダーが挑んだ最後の戦い、その前に交わされた二人の会話には思わずうるっとくるものがありました。挫折と喪失に向きあって、そうして、小生意気な子供だった少年は一つ大人になります。その王道過ぎるほどに王道な成長の物語は、大人たちの苦さに溢れたこの物語の中である種清涼剤のようになっていたと感じるのでした。
何重もの物語を束ね、これぞという展開を注ぎ込み、この先の物語に繋ぎながら、1つのエンターテイメントとしてもとんでもなく魅力的に描くという、作者の力を感じさせるような作品でした。面白かったです!