GOSICK8上 神々の黄昏 / 桜庭一樹

シリーズを通して、何度も何度も繰り返して示唆され続けてきた、おおきな嵐。別れの時間。それがついに訪れる、最終巻の幕開けです。
序盤、マルグリッド学園。久城に15個の謎を持ってくるように告げるヴィクトリカ。おかしな様子の村。故郷に帰った学生たち。ちょっとした表現の端々からこれでもかというくらいに伝わってくる、この日常が、もう終りを迎えるんだという予感。それは読んでいて胸が締まり、息が苦しくなるくらい、ここまでの長い間に積み上げてきたもの全ての終わりのようで。
ヴィクトリカと久城の間に結ばれた、固くて強い、お互いがお互いにとって何よりも特別な、絆。少しづつ表に出てきていたとはいえ、まだずっと秘められていたものだった想いが、静かに滲むように溢れる年末の夜の二人のやりとり。そして、新年の朝、嵐の始まり。
戦争という大きな嵐。ヨーロッパの古い時代、それを象徴するオカルト省とその秘密兵器、灰色狼のヴィクトリカ。時代は容赦なく移り変わる中で、オカルト的なるものは科学的なるものに排斥されていく、そういう大きな流れ。その中で、囚われて予言する機械とされたヴィクトリカに、妄執じみた野望に囚われたブロワ侯爵。本国に送還され、ヴィクトリカを失ったことから影を背負うようになった久城。そして彼のもとに届いた赤紙
その全ては、かなり前の時点から予想されていた展開で、だから驚きはなくて、覚悟もできていたはずで、それでも読んでいてこんなに苦しいのは、ここに込められた想いの強さなのかなと思います。ある種神話的な大きな語りの中で、描かれていくのはこれまで登場したキャラクターたちひとりひとりの暮らし。時代の大きな節目、人が生み出しながら人の手を離れたもっと大きな嵐として描かれる、この作品での「戦争」というものにさらされた、彼ら彼女らの姿。
愛情も執念も優しさも苦しみも何もかもを、細かいディティールではなくて大きな流れの中に溶かしたような、得体の知れない物語の、言葉の力が感じられるような一冊でした。そして、それが私はすごく好きです。

「生きてるねぇ。フラニー」
「そうよ、アブリル。わたしたち、まだ生きてる」

戦争の中で、困窮するロンドンから田舎町まで食料と物の交換に行ったアブリルとフラニー。戸惑い、気丈さを装い、不安定に揺れる、そんな彼女たちが、ハムをつまみ食いして言ったこんな言葉に、思わずこみ上げるものがあったのも、そういう物語の力なんじゃないかなと思うのです。