双界幻幽伝 出逢いは前途多難! / 木村千世

双界幻幽伝 出逢いは前途多難! (ビーズログ文庫)

双界幻幽伝 出逢いは前途多難! (ビーズログ文庫)

小動物系ひきこもり少女と口の悪い武人の青年の二人にひたすらにやにやする小説でした!
死者の霊である幽鬼が見える少女朧月は、それが原因で過去にあった出来事からひきこもって幽鬼とばかり話しているような人間恐怖症の少女。その朧月の元に、皇宮からの迎えとして無愛想でちょっと怖い感じの武人蒼刻がやってきてという物語は、蒼刻を見て即座に逃げ出し戸棚の中にひきこもるという五年間屋敷から出ていない朧月の強烈なインパクトで始まります。
そんな朧月をなんとか連れだして、朧月の親友の幽鬼である星彩と共に蒼刻は皇宮を目指すのですが、人が多いところはダメでどんくさくて何かと帰りたいという朧月に手を焼き続ける形に。蒼刻の方も口下手なところがあって朧月に割とスパルタなこともするのですが、なんだかんだでそんな二人の相性が悪くなくて、お互いに戸惑いながらも憎くは思っていないところがミソな感じ。
そして皇宮では、幽鬼が原因の怪異を二人で解決することになるのですが、皇宮にいる間は恋人のふりをするとかまたベタな展開が良いのです。そして物語が進むごとに二人の距離が縮まっていくのが、それぞれの心理で描かれているのも丁寧で良い感じ。星彩をはじめとして、太子様まで二人をからかったりむしろくっつけようとしたりとするのですが、そういう振りをされても後ろ向きな朧月に素直じゃない蒼刻はちょっと引きつつも、否定はしなくなっていくのがなんというかもう! そして最後にはあんなことになってもう! それから二人に気を取られていたら太子様はそっちか! いやどっちもか! とかなんとか思わずきゃーきゃー言いたくなるような。
皇宮での事件も、ドキドキハラハラさせるような展開で決して薄くはないけれど、それ自体が押しが強すぎなくてサラッと読めて、しかも二人の心の距離を縮めるようなものになっているのが絶妙なさじ加減だと思います。キャラクターもアクは強いけれど嫌味がなくて好感が持てますし、ストーリーの流れも自然で、すごく丁寧に創られた作品という感じがする一冊でした。
そして個人的にとても魅力に感じたのが朧月のキャラクター。ひきこもり癖でで後ろ向きでどんくさくて、でも意外に芯が強くて現実的で強かなところもある性格がすごく好きです。明るくはないけど暗くならないというか、真っ直ぐなところが好感度高いのかなと。思いっきり珍獣扱いされている前半も可愛いですが、後半に入ってからの蒼刻に惹かれつつもどこかずれた天然公主っぷりを発揮しているところもまた可愛いと思います。
そんな感じでとても楽しめた一冊でした。正直なところ、キャラクターから展開まで含めて読者にあまりにも都合が良すぎるというか、優しすぎる世界のような気はするのですが、これだけにやにやさせてもらえるのならそれもまた良いかなと思います。次の巻ではどれだけバカップルぶりを発揮してくれるのか、シスコン兄の逆襲はあるのか、そして太子様はどう動くのか、期待したいところです。ごちそうさまでした。