- 作者: 杉井光,岸田メル
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2011/07/08
- メディア: 文庫
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本当にもう、登場人物たちがとびきりの馬鹿ばかりで、どうでもいいように思えることにこだわって、うじうじと悩んだり、自分を縛ったり、何がしたいのか自分でも見えなくなってしまったり。でも、そんな繊細な人たちの真摯さが織り成す物語だからこそ、感傷的すぎるくらいに感傷的な空気を纏った、哀しいけれどどこまでも優しい物語になっているのだと思います。そしてその空気がこの作品の魅力なんだろうなと。
工場経営で借金を作り家を出てホームレスとなった父親。その父親を探して欲しいというアイドル。ニート探偵へとよせられたその依頼自体が、父と娘の空白の時間というもう戻らない過ぎ去ったものを掘り起こすようなもの。ただ、それだけでも胸がつまるようだった事件は、思いも寄らない展開を見せて、よりやるせないものとなります。そして、そこから先にあるのは死者の代弁者としての探偵が掘り起こす、ただの真実。
その物語と、少佐とホームレス狩りを行っていた集団の話が絡み合いながら、物語はクライマックスへ。ニートたちが決して踏み越えない一線を踏み越え、ニート探偵がただの真実として扱う死者の言葉に意味を持たせるために、鳴海のとった不器用でも鳴海にしかできない行動が、未来へと繋がる一筋の何かを残せたのかなと思えるラストが静かで、綺麗で良かったです。
キャラクター的には、いよいよ伝説になりつつある鳴海の人たらしぶりと、露骨になってきたアリスの鳴海への好意。それからアイドルであるユイの見せる普段の弱気さと、スポットライトを浴びたときに見せるプロフェッショナルとしての姿。そして何より、事件の後に「馬鹿騒ぎをするべきなんだ」と呟いたアリスの姿が強く印象に残る一冊でした。