ブレイク君コア / 小泉陽一郎

ブレイク君コア (星海社FICTIONS)

ブレイク君コア (星海社FICTIONS)

第1回星海社FICTIONS新人賞受賞作。読み終わって、帯に青春の最前線と書かれている通り、ファウストから続く流れの中で、これが今一番新しい青春小説になるのだなぁと思いました。
高校生の入山優太が自転車を蹴りつけていた少女飯田いくみに恋をして、一緒に帰るようになって、告白しようとした時、彼女はトラックに跳ね飛ばされて。そしてそこから始まったのは、飯田いくみと武藤という人間が入れ替わってしまう人格の交代劇。ちょっと変わった青春恋愛もののような始まり方から突然のギアチェンジに戸惑った瞬間には、もう物語は走りだしているという感じでした。
非現実的な話と溢れる暴力と衝動を、立ち止まることのない疾走感にのせて並べていくような。自分のことしか見えていない、身勝手な登場人物たちの姿は正直読んでいていらっとするものがありますし、薄っぺらいそれを自分は賢いみたいに語られれば辛いものもあるのですが、そんな自意識もまた青春らしい青春。そして駆け抜けていく物語は、終盤に入るとさらにギアを上げて、どこにたどり着くか分からない展開へ。
魂と身体がいとも簡単に切り離されて入れ替えられて、そのどちらに惹かれるのかだとか、組み合わせの問題なのかとか。ほんのちょっとだけ線を超えた先に当たり前のようにある、血と暴力の世界とか、その凄惨さとか。当たり前のような顔をして登場する、気の狂った殺人者とか、謎の霊能力者とか。人の命も常識もどこかに吹き飛ばしたような世界を描きながら、でも登場人物たちの姿勢はどこまでも真摯で、切実。いとも簡単に壊れるというよりも、始めからその価値なんてどうしようもなく軽いものだと描いているようで、なのにそこに対して向き合う姿は、どこまでも純粋で、何かに祈っているかのような印象すらある、そんな今っぽい青春小説でした。
嘘みたいな事件が終わって、人は変わったり変わっていなかったりで、特別な価値が生まれるわけでもなくて、ただ隣には誰かがいるような感覚。そしてそこに込める祈りのような何か。作者の人が作品を通じて、その立っている場所を何とか刻もうとしているみたいな、そういう種類の切実さを感じる作品でした。
作者は89年生まれで今21〜22歳なはずで、読み終えてそのことがすごくしっくりとくる小説。たぶん私も、あと5年くらい前にこれを読んでいたらもっと惹き込まれていたのかなとも思います。ただ、今の私が読んでも、正しくは届いていないのかも知れなくても、そこから何かを感じることができる、そういう力を持った小説でした。面白かったです。