はたらく魔王さま! 3 / 和ヶ原聡司

はたらく魔王さま! (3) (電撃文庫)

はたらく魔王さま! (3) (電撃文庫)

ゲートを通してこの世界に突如現れた小さな女の子アラス・ラムス。その彼女が真奥を「ぱぱ」、恵美を「まま」と呼んだからさあ大変という第三巻。
見に覚えのない子供に戸惑う二人に、ヤキモチを焼く千穂、役に立たない漆原。真奥が引き取って育てることになれば芦屋が振り回されてという流れは、それぞれのキャラクターを考えればそうなるだろうという展開まさにという感じで、ドタバタとしながらこの作品らしい温かさがあってよかったです。そしてこの育児描写、作者が子育てについて取材もしたというだけあってかなりリアルな感じ。アラス・ラムスの可愛さもいわゆる萌えキャラ的なものではなく、小さな子供らしいもので嫌味がないのも良い感じ。夜泣きにオムツにと散々振り回されつつも、どんどん情が移っていくあたりがそうなんだろうなという感じ。
そしてそんなドタバタ日常の一番の見所はやはり真奥と恵美の擬似夫婦生活かなと。勇者と魔王で水と油でとはいいつつも、ここまでの流れからお互い相手に悪い印象を持っていないというのもあって、ケンカばかりしながらなんとなく仲良しなところが逆にそれっぽい夫婦っぷり。アラス・ラムスを連れての遊園地とか、家族三人川の字になって眠るとか、もう結婚してこの世界に骨をうずめていいんじゃないかと思いました。というか恵美が遊園地に思わず気合の入ったファッションで来たりしていて、それただの見栄だけじゃないでしょと。他にも意外なところでフラグの立った芦屋と梨香といい、魔王軍と勇者側と人間側が入り乱れて、みんな仲良しで楽しそうな空気があるのがこの作品の魅力だと思います。
ただ、そういった部分の魅力という意味では1巻からのものなので、さすがに目新しさはない感じ。その分この巻は物語自体に大きな動きがありました。魔王がこんなにも好青年であるという謎に対して、魔王vs勇者という構図より大きな世界の秘密が見え隠れして、人間界を攻め入った時の魔王についても描かれ始めて。そうなってくると、母親が大きく謎に関わっていそうで、逆に本人は何も知らない恵美が物語の鍵になってくるのかなとか。それだけならありそうな話かと思っていたのですが、最後の最後でそういう設定を持ってくるかというのはなるほどという感じで面白かったです。本当にこれは美味しいシチュエーションだなと。これで恵美はさらに大きく突きつけられたわけで、彼女が真奥のこと、そして世界のことに対してどうやって答えを見つけていくのか、この先が楽しみになりました。