廃王国の六使徒 / 栗原ちひろ

廃王国の六使徒 (f‐Clan文庫)

廃王国の六使徒 (f‐Clan文庫)

世界中の呪いの集まる街「百塔街」。それを浄化しようと神に愛された司教が街を訪れたことで、そこに暮らす異端者たちが集い、という物語。
呪いの街とそこに暮らす美しいものを愛する青年。父の遺した魔香水を使い、美貌を誇り、自分にとって面白いものを追いかける人たらしなアレシュが結成する深淵の使徒。一直線バカで強力な呪いを受けた体である青年や、魔界の住人の少女、長い時を生きてきた大魔女に、街の死体処理を仕切る葬儀屋の首領。誰も彼も決して正義感からなんて動かない、どこまでも自分勝手に自分の価値を求める者たちの気まぐれな集合体。利害だけではなく、人と人とで惹かれ合っていて、けれど明日には殺し合っているかもしれない、そんな刹那に築かれた関係性の心地良さ。
退廃の色濃い呪いの街に、物語の端々から感じる過剰なまでの装飾。そこには貫かれた美意識のようなものは確かにあって、でも肩肘を張らずに自然体な雰囲気もあって。とんでもない背景を背負っているはずの異端者たちのダメ大人ぶりはどこか愛おしくもあり、人がバタバタと死んで明日には彼らだってどうなっているか分からないようなこの街自体も、愛すべきものように思えてきます。それはきっと作者がこの街とこのキャラクターたちのことが好きで、それが読んでいても伝わってくるからなのかもしれないと思ったり。
物語はそんなキャラクターたちの関係もありつつ、司教クレメンテとの闘いとアレシュ自身が抱えていたある問題が描かれていきます。外側から首を突っ込んで遊ぶ立ち位置にいるように見えたアレシュが、実はこういうものを抱えていたというところがちょっと意外な感じ。格好つけたすかした人かと思っていたら、やっぱりこの人もまた愛すべきダメ大人だったのだなぁと思いました。そしてそれを周りから見ている人たちの視線もまた良いもの。
読み終えて、彼ら六使徒がこの街で繰り広げる物語にもう少しだけ浸っていたいと感じるような一冊でした。面白かったです。