昨日は彼女も恋してた / 入間人間

島で暮らす少年ニアと少女マチ。子供時代にいつも一緒で仲のよかった二人は、あるできごとから決定的なケンカをして、そのままマチは都会へと引越し、事故で車椅子となったマチは帰ってきた今でもニアのことを毛嫌いしていて。
そんな二人が、変人科学者の作った胡散臭いタイムマシン(軽トラ型)で、あの時あの時代、まだ二人が仲の良かった頃へと帰ります。成長した二人を見つけて、懐いてくる幼い頃の二人。タイムマシンの故障で現代に帰れないまま、その時代を過ごす二人の関係は少しずつ、根雪が溶けるように変わっていって。
入間人間らしい青春モノで、バックトゥザフューチャー風味。でも、幼い頃の自分自身と交流するというのはちょっと違う、みたいな。喧嘩別れをしたままの今の二人と、四六時中一緒にいた頃の二人。その姿を見せられて、おまけに子供のニアはマチに、子供のマチはニアに懐いて。責任と引け目を感じていた少年と、尖っていた少女の気持ちの変化を、二人の一人称で交互に描いていく形が、何気ないなんでもないことでのいざこざとか、それを引きずって素直になれない気持ちとか、かつて抱えていた好意とか、そういうものを絶妙にくすぐってくる感じでとても良かったです。幼い頃好きだったことを、眼前で延々見せつけられるとか、すごいシチュエーションだなと。
その中で、少年はこの時代の幸せと、壊れてしまう運命を考えて、自分なりの決断をして、行動をします。たとえ何も変えられないとしても、彼自身の中で、自らが犯したささいな、けれど決定的な失敗に対する、マチとの関係を含めた一つの精算。それは失敗で、ある意味で成功で、だから少年の物語としては綺麗にまとまっていて、でも少女の物語としては何も解決していないのではと思った矢先のこの次巻への引き。作者に見透かされたようで悔しいですが、早く続きが読みたくして仕方ないという感じになりました。
それから、個人的に好きだったのが、現在ではボケてしまった祖母とニアの交流。入間人間の描く老人の、ちょっとだけひねていて、かくしゃくとした感じは好きです。冒頭で祖母の言う「やがみさん」の意味はすぐ分かるのですが、それでもちょっとうるっとくるものが。