猫の地球儀 焔の章 幽の章 / 秋山瑞人

猫の地球儀 焔の章 (電撃文庫)

猫の地球儀 焔の章 (電撃文庫)

猫の地球儀〈その2〉幽の章 (電撃文庫)

猫の地球儀〈その2〉幽の章 (電撃文庫)

猫とロボットの物語。トルクと地球儀の物語。そして、天才と宗教の物語。
トルクという宇宙ステーション的な場所で、猫たちとロボットが暮らしていて。恐らく人間という存在は死に絶えて天使と呼ばれ、死んだ猫の魂は地球儀に昇天力(!)で昇っていくと信じられた世界。ただ強さを求めてスパイラル・ダイブという闘技で頂点に立った焔と、三十七番目のスカイウォーカーとして地球儀へと行くことを夢見る幽。二匹の猫が出会って始まる物語は、SF的な要素に、ロボットvsロボットの格闘に、異端としての天才と宗教の話に、強すぎるチャンピオンと彼に近づいた子猫と、様々な要素を交えながら進んでいきます。とにもかくにも、想像もつかないような話のはずなのに、まるでそこでの生活が見えるように活き活きと描かれるこの世界が素晴らしいと思いました。
それぞれにそれぞれの生き方があって、それが交わったことで生まれる物語。ピーター・アーツvsガリレオ・ガリレイという作者のあとがきが笑ってしまうくらいぴったりな焔と幽の関係も、幼いがゆえの裏表のない真っ直ぐさをもった楽の存在が二人に与えたものも、彼らと彼らのロボットたちの間にある信頼関係も、地に足のついた輪郭のしっかりしたものとして感じられて、だからこそ一言で単純に割り切れるようなものではなくて。
そんな複雑さは彼ら自身やその関係だけでなく、トルクという世界に対しても言えること。地球儀への昇天という、トルクという厳しい世界で生きる猫たちにとっては必要な教義があって、そこに科学的正しさというものを主張したスカイウォーカー。それは異端で、許されないもので、彼らの夢見た技術はトルクという世界に対して代償を求めるもので、それでも幽は求めてやまなくて。
天才と言えども決して聖人ではなく、だからこそ孤独も愚かしさも抱えています。そんな猫たちの物語はどこまでも人間臭くて、規格外であっても社会の中で生きるただの個人としての生き様を強く感じるものでした。彼らの出会いがあり、起きたことがあり、変わったものがあり、そして起きてしまったことがあり。その果てになにもかも綺麗に正しい答えの見つかるものではなくても、幽が幽として選んだ一つの結末には、ああそこへ向かうのかと、思わずこみ上げるものがありました。
ずいぶん前からいろいろな人に勧められていて、ようやく読めた作品。そして、読み終えてそれだけおすすめされる理由の分かる作品でした。正直文章があまり合わなくて、最初の方はイメージが上手く掴めず読むのが辛かったのですが、最後まで読んで良かったなと思いました。面白かったです。