時間のおとしもの / 入間人間

時間のおとしもの (メディアワークス文庫)

時間のおとしもの (メディアワークス文庫)

タイムマシンのない世界だ。
超能力もない毎日だ。
時間の針は淡々と回って、俺たちは歳を取っていく。
その流れに逆らうことはできない。奇跡はこの空の下で起きない。
しかしこの後悔が永遠に終わらないのなら、動こうと思う。

タイムトラベルとか、パラレルワールドとか、時間をテーマにした4編からなる短編集。「昨日は彼女も恋してた」「明日も彼女は恋をする」と併せて、作者の「時間」をテーマにした作品がたてつづけに出版された形ですが、この短編集ラストの「時間のおとしもの」を読むと、そのテーマに対しても入間人間入間人間であるのだなと思います。
取り返せるものなんてなくて、時間の流れが止まることもなくて、派手な奇跡のようなことはなくて、それでも些細な私たちの時間がちょっとだけ重なること。ズレた時間がもたらしてくれるおとしもの。そんな世界の中で、動き出せる、進むことができる、そんなささやかな奇跡。私はこの人の作品のこういう諦念と前向きさがセットになったみたいなスタンスがやっぱりすごく好きなんだと思います。
そして、そういうスタンスだからこそ、どんなに時間をさかのぼっても何も取り返せるものなんて無い。だけれども、自分自身すら研究対象としてしまえたからこそ、そこに後ろ向きな気配が微塵もなかった「未来を待った男」がとても良かったです。
文字通り未来を待ち続ける男と、そんな彼の姿を見てタイムマシンの開発に挑んだ主人公。主人公のたどった人生、そしてある仕掛けで一気に色がつく彼と過ごしたあのしょうもない学生時代。それは主人公にとってはもう別のもの、決して取り返せるものではなくても、その行動の結果として動き出す、もう一つあったかもしれない可能性。こそばゆくて、なんだか妙に清々しくて、読後は不思議と素敵だったと思えるような、そんな短編でした。