- 作者: 和ヶ原聡司,029
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2012/02/10
- メディア: 文庫
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銚子行きも最初は魔奥たち3人だけかと思いきや、旅行という形で千穂が、その保護者として恵美にアラス・ラムス、鈴乃まで付いてきて、仲良しグループの観光旅行的な感じに。ここにきてこの人たち、実際のところそんな雰囲気ではありますが! そこからはマクドナルドで鍛えた真奥の指揮の元、家族経営のやる気のない海の家を立て直す手腕の鮮やかさ、そして読み違えから来た窮地を鮮やかに救う女性陣と、なんだかもうとても健全にお仕事ものをしています。木崎店長の教えで真奥が成長しているところを感じさせたり、嫌々ながらも働いている漆原だったり、そういう細かいところがとても良いです。
それに限らず、相変わらずこの作品は日常を描くときの視点に生活の匂いがある感じがします。ライトノベルの日常描写というとどこか現実感のないファンタジー日常になる傾向があると思いますが、この作品の場合はリアルな部分が嫌味にならない程度のバランスで入ってきて、庶民派な空気を作り出しているのが素敵です。アラス・ラムスを抱っこしている恵美の図とか、汚れた店舗を掃除している描写とか、浜で花火の様子とか、すごく空気が良いです。何よりその空気がどこか想像できて、それを楽しそうに思えるところが素晴らしいなと。そしてそんな中に銚子電鉄の実話エピソードをサラっと入れてくる辺りも、この作品だからこそ合うのだなと思うのです。
そんな旅行+海の家バイトな話を満喫していたら、後半は異世界ファンタジー要素がどばっと。全く身構えていないところに来たのでいまいち飲み込みきれない部分もあったのですが、世界設定は前巻に引き続いて一気に広がってきた感じがあります。勇者と魔王の見てきた世界の狭さというか、この世界を取り巻く状況はおそらくもっと広いものであるらしく、その渦中には地球に来ている二人がいる訳で。痺れるかっこ良さを見せてくれた天祢さんの正体も含めて、これはこの先が面白くなりそう。そしてこの巻ではファンタジー部分とシリアス部分がこれまでよりうまく共存している感があって、そういう意味でも今後が非常に楽しみです。
そしてキャラクターの掘り下げと成長も見所。唯一の普通の人間ながら恋する女の子の強さを見せる千穂に、最近周りの状況に流されてツンデレしながら協力パターンに陥っている恵美といったところの真奥をとりまく環境もあり。ただ、この作品の場合どこまで行っても魔王と勇者が、かつて戦争をして殺しあった過去だけは消えないわけで、このなし崩しの協力状態を続けるにしても、どこかで転機が来るにしても、そこをどう精算するのか、できるのかというところがキャラクターの関係の面での鍵になってくるのかな、と思いました。そしてその時は、倒した敵を招き入れながら拡大していく覇道を今回珍しくかっこ良く示してみせた魔王よりも、勇者エミリアに対してそれは重い問いになるのではないかなと思ったり。