UN-GO 因果論 / 原案:坂口安吾・會川昇

UN?GO 因果論 (ハヤカワ文庫JA)

UN?GO 因果論 (ハヤカワ文庫JA)

映画になったUN-GO 因果論の脚本家自身の手によるノベライズ作品。映画を見て非常に面白かったので、改めて小説で読んでみました。
映画はこの分量に対しての短い尺の中で圧縮展開の巧さが印象的だったのですが、その分この世界のこと、そして何より探偵:結城新十郎とは何者なのかというところが掴みきれない部分もありました。そういう部分の補完という意味で、なるほどと思うことしきりな一冊でした。
近未来、テロとの戦争の果ての「戦後」日本。海外で内戦巻き込まれて死んだNPOに、自衛隊の海外派兵、国民感情を煽ったカルト教団。ここに描かれた世界の中で起きているのは、もうすぐそこにあるかもしれない何かで、その戦後の閉塞感も今に通じるところがあります。私は読んでいないのでなんとも言えないのですが、だからこそ、これが坂口安吾の作品を下敷きにしていることにも意味があるのかなとも思うのです。
そしてそんな世界の中で、人に喜ばれることをやろうとした水泳を捨て、海外を放浪する中でNPO「戦場で歌う会」で出会い、事故に巻き込まれ、そして因果という存在に出会った”探偵”。主人公は彼であり、これは聖人でもなければ超人でもない彼が、迷い生きる物語でした。
真実というもの、人の心の奥底にある”ミダマ”。自分自身が分からなくて、何をしたいのか、何を望むのかを見失った彼。幸せな世界を創るための虚飾の事実を生み出す海勝麟六、そしてミダマですらその人の全てではないと言った倉田由子。
虚飾を否定して、ミダマすら全てではないという言葉に囚われても、そんな世界の中で真実を見つけようと、自分が好きだった女性を殺した証でもある因果をそばに置いて、なお足掻き続けるろくでもない一人の探偵、結城新十郎の出自に迫る物語。どうしようもない戦後の世界の中で、どこにもたどり着けないだろう彼が、ここからどう生きていくのかという見方で、UN-GOのTVシリーズをもう一度見返したてみたくなるような一冊でした。