スカイ・ワールド #01 / 瀬尾つかさ

スカイ・ワールド (富士見ファンタジア文庫)

スカイ・ワールド (富士見ファンタジア文庫)

MMORPGスカイ・ワールド」の世界に取り残された少年少女たちの物語ということで、ネットゲームと異世界ファンタジーを掛け合わせたよくあるパターンの話ですが、そこは瀬尾つかさ作品らしい魅力にあふれていて非常に面白かったです。
主人公のジュンはいわゆるゲーマーで現実世界からスカイワールドに取り込まれた後もクエストを埋め続けているような少年。そんな彼が無数の浮島からなるスカイワールドという世界の中で、第8層という下層の島で出会ったのは、少女たちだけの閉鎖的なギルドとそこに所属する初心者プレイヤーの少女カスミ。とある事件から、カスミと彼女の友人であるエリと行動を共にすることになったジュンは、渋りながらもレイド級モンスターを倒して飛空艇を手に入れるため、二人を鍛え始めてという感じで、実に王道な物語。ちょっと斜に構えた腕の立つ男の子に、女の子女の子して天然入っているけど芯は強い女の子、そして賑やかし的な位置にいながら気配りができる口の悪い女の子と、このベタにも程がある黄金のカルテットがたまりません。
そして、この作品の魅力はそんな少年少女たちのワクワクするような冒険と、MMORPGと現実のバランスの巧さかなと。ゲーム的なシステムはきっちりと残っていて、ゲーマーであるジュンはその隙間を狙って、ルールの穴をついていくのですが、この辺りはゲーム、特にちょっと古いRPGが好きな人的にはよく分かる感じのもの。そしてゲームらしさをきっちり残しながら、これは現実であるという意味でのキャラクターにとってこの世界の重さがあって、ただパニックになったり悲愴感は恐らく意図的に出していない当たりがとても好印象。浮島が集まる世界の真っ青に抜けるような風景が見えるようで、それが少年少女のドキドキするようなジュブナイル的色合いのある物語とあいまって、爽やかな空気を作っていると思います。
物語的にはまだまだ序盤、出会いという段階。ただ、とにかく居心地が良ければよいとリーダーが強制しているようだったギルドの崩壊や人間関係のこじれは何かすごく分かるものがありますし、そこからはみ出てジュンについていった二人とジュンの築いていく信頼関係の素晴らしさ。カスミが露骨にジュンにベタ惚れで、ジュンはヘタレでそれに気が付かないふりをしていて、それで成り立っている心地よい関係。でもそんな状況でカスミの背中を押して、この関係は絶対壊れないと言い切れるエリの良い女っぷりが素敵すぎて。そしてラスト、集団戦闘用モンスターにたった三人で挑んだ彼らの、お互いに寄せる信頼関係、ヒヤヒヤさせる苦境を乗り越えるそれの素晴らしさもまた。
そしてそんな彼らの行く先が簡単なものじゃないと思わせる、このスカイワールドという世界の謎。謎の少女を始めとした人物が垣間見せるのは、これがただのゲームの世界なんかじゃないという示唆。それは瀬尾つかさ作品、高次元存在が出てきても宇宙人が出てきてももう何も驚かないわけで、そんな大きな世界に投げ出された少年少女の行く道にに何が待ち受けるのか、楽しみに待っていたいと思います。

最後に、流行のMMORPGものを書くにあたっての作者の言葉をあとがきから引用。

実のところ、この切り口で瀬尾つかさが書くにあたって、ひとつ重視したかった要素がありました。

冒険。そして冒険を楽しむこと。

これが瀬尾つかさにとって、スカイ・ワールドという物語のアピールポイントです。

まさしく、その通りの作品だったと思います。