星の海にむけての夜想曲 / 佐藤友哉

星の海にむけての夜想曲 (星海社FICTIONS)

星の海にむけての夜想曲 (星海社FICTIONS)

カレンダー小説として公開された作品に幾つかの章が加えられ、空を花が覆った世界の1000年の歴史を描いた一冊。
唐突に空を一面に花が覆い尽くして、星も青空も見えなくなった世界。その花粉を吸った人は病を発症して狂い、少しづつ人間は滅亡に近づいていく、終わりゆく世界の物語。とても佐藤友哉らしい小説で、けれど今までの佐藤友哉作品とは随分違った印象を受けました。
唐突に襲われた、理解を超えた大災害。その後の世界を生きなければならないこどもたち。滅びへの道を進んでいく人類。先に繋がらない、行き止まりの世界と、そこで星を見ようとした子ども。夢自体も、やり方も、それは最後まで稚気じみていて、けれどそうとしかできなかった切実さをはらんで。その行き止まりの閉塞感は佐藤友哉作品らしくて、でもその出発点が明確に物理的な災害であるというのは、「3.11を生き抜いてしまった僕らのための」作品である所以で、だからこその『散花』で描かれる結末なのかなと。それは出発点とやり方を受けるように、やっぱりどこか極端でこどもっぽく、でも、そうであるようにそうであるしかなくて、それで大丈夫なんだと言っているような、掴みどころはないけれどそんな印象の残るものでした。
失われた星と滅び行く人類と屍体の山を前にして淡々と描かれる、感傷的である種の美しさを感じるような世界。その静謐さが、冷めているのか諦めなのか達観なのかは正直良く分からなかったのですが、ごちゃごちゃとした色々なものを奥の方に沈めて、星の美しさとそれを見たいという強い気持ちだけが浮き上がってくるような、そんな感触のある一冊でした。