サエズリ図書館のワルツさん 1 / 紅玉いづき

サエズリ図書館のワルツさん 1 (星海社FICTIONS)

サエズリ図書館のワルツさん 1 (星海社FICTIONS)

本を愛する人による、本を愛する人のための。
電子端末が普及して本が貴重なものになり、古いものは骨董品としての価値すらもった時代に、膨大な数の蔵書を一般の人々にも貸し出し続ける私設図書館。そんなさえずり町のサエズリ図書館、その特別探索司書であるワルツさんと、図書館を訪れる人々の物語です。
本など読まなかったアホの子ドジっ子なOLが、図書館の人々と本というものに出会ってその面白さに惹かれていく「サエズリ図書館のカミオさん」を読み始めた時には、これは本の珍しくなった時代に、本を通じて何かを手にする人たちの心あたたまる物語なのかと思っていたのですが、それはこの作品の半分でしかなくて、読み進めるうちにむしろ本質はもっと別のところにあるんじゃないかという気がしてきました。
ここにあるものは本への愛で、でもそれは優しくて温かいそれだけのものなんかではなくて、もっと偏執的で歪んでいて、それでも決して愛さずにはいられない、なるほど病のようなものなのだろうと。
本の価値が爆発的に上がった時代に、そうした古い本を昔と変わらず無料で貸し出し続けるサエズリ図書館。莫大な財産的価値。その存在の異様さは、作中でだって何度も糾弾されて、けれどワルツさんは決してこの図書館のあり方をやめようとしない。なのに、その図書館の本をすべて私の本だと言って、決して人には譲らず、盗もうとする人はどこまででも追いかける。その在り方はやっぱり常軌を逸していて、その執着の理由が明らかになるに従って、それはもう呪いのようなもので、この人はきっと本の亡霊のような存在なんじゃないかと思うほどで。
そのことはこの作品世界の置かれた状況がはっきりするほどに、余計に強く感じます。何かが終わってしまった、何かが終わりゆくその中でも決して変わることなく、時の流れに逆らうことなどできないのに、時の流れから切り離されたかのように。そこには本があって、本そのもののような司書さんがいて、人の心を動かし、想いを繋ぎ、時には人を縛り、まるで永遠みたいに。それはきっと歪なものであって、だからこそ、過去と今とそして未来へと、そこに在り続ける強さみたいなものを感じます。
読み終わってふと、これは、愛と、愛し続ける覚悟の物語だったのかなと思いました。