アニソンの神様 / 大泉貴

アニソンの神様 (このライトノベルがすごい! 文庫)

アニソンの神様 (このライトノベルがすごい! 文庫)

「割と好きなもの」が題材であれば適度な距離感を持ちつつも楽しむことができて、けれど自分にとって「好きすぎるもの」や「身近なもの」が題材になっていると、距離感を取りあぐねるというか、冷静に読むことができないというのはままあることで。
という訳で、読む前から相当に身構えていたアニソンをテーマにした一冊、でしたが結果としてそれは杞憂ですごく自然に楽しむことができました。
アニソンが好きで、アニソンバンドをやりたいと日本にやってきた交換留学生のエヴァを中心として、バンドのメンバー集めから学園祭ライブまでを描いた物語。とにかく嫌味がないというか、好きなものに打ち込む真っ直ぐさとか、仲間を集めてだんだん心を合わせていくこととか、素直すぎるくらいに素直な青春ものになっていました。
単身日本にやってきて、持ち前のパワーと前向きさで皆を引っ張るエヴァに、隠れアニソン好きな女子、ボカロPをやっている子、お調子者のベーシストに、周りと上手くいかずに孤立していた少年。そんな5人の性格も、その過程も、どこかたどたどしさがありながら、でも根の部分はすごく素直で、何かを好きだ何かをやってみたいという気持ちが通っている、素朴で自然な感じがとても良かったです。アニソンというともすれば蔑まれる文化に対して、全肯定ではなくバカ正直に留保をつけながら、それでも訥々とその良さを作品として語ろうとしている、みたいな印象。
あまりにも裏がないというか、もっとどろどろした部分とか、卑屈さとか、そういうものが出てきてもおかしくないような話なのにエヴァの性格もあってかこんなにさっぱりと明るくて、だからこそ皆が一つになる最後のライブシーンでこれだけ気持ちの良さがあるのだろうなと思います。
そして選曲にいちいちやられるのは、同じ時代を生きているアニソン好きとしては仕方が無いけれど卑怯。「もってけ!セーラーふく」はそういう聞かせ方あるあるとか、ライブの選曲も「あー」という感じだったりとか、目次でそもそも釣られていたりとか。そして何よりよく知っているだけにその音楽が読んでいる途中でも彼女たちの演奏する姿付きで頭の中で再生されるという、アニソンが好きな人はより楽しめるような作品だった思います。面白かったです。